第214話 よし、行こう!

「貴様は王の命を無視する…というのだな」


 そう言い放つ団長のオッサンの声は低く渋い。そしてもちろん、威圧感たっぷり増し増しである。具体的には…そう、某ソロモンのナイトメアさんのような…えっ?全然具体的じゃないって?良いんだよ、俺が好きなんだから…。

 そして、そんな某ソロモンの悪げふんげふん…ナイトメアさんに似た、威圧感たっぷりの渋い声を向けられた我が愚兄はというと…


「そ、そそそ、そんなことはっ…」


 と焦りの表情とともに噛みまくりである。


「黙れっ!ならば何故このような状況になっているっ?」

「そ、それはっ…そこの愚弟ユーリウスの…そうっ、ユーリウスのせいで我がゼハールト家がおかしくなってしまったのです。私はゼハールト家の嫡男としてユーリウスを倒しっ、ゼハールト家を正しい道へと戻さなくてはならないのですっ!!」


 お、おおぅ…なんか途中から自分の言葉で盛り上がって上手いこと言えたっ!…みたいな雰囲気出しちゃってるけど…


「だからどうした…」

「………はっ?………いや、あの」「だからどうしたっ、と言っているっ!!」


 ビクゥッ…とビビり散らす我が愚兄エリウス。ただし…今の声には俺とシーバスもビビったりしていたりする…。突然大声出さないでよねっ。


「貴様は騎士でありながらっ、王命よりも自家を優先させるっ!その上での私闘っ!それで良いのだなっ!?」

「っ!?け、決してそのようなこ」「では、どういうことだっ!?今、貴様が言ったことだろうっ!!」


「うぐっ…」


 団長さん…詰め方がパじゃねえ。


「ユーリウス様に似ていますが、煽りが無い分あれは厳しいですね…」


 シーバスが呟く。………何?ソレは暗に俺を揶揄してる?


「………いえいえ、そんな…」


 う…嘘くせぇ。まあ、いいけど…。

 ほっほっほっ…とそんな時だけ好好爺とするんじゃないよ。そんな筋骨粒々な爺が………結構いるな、この異世界には。


「…でエリウス=フォン=ゼハールト、貴様どうする?どうするべきか分かっているよな…」

「ぐっ…」


 某沈黙なシリーズの主人公のような声で我が残念な愚兄に問う。

 エリウスはそんな憎々しい目で俺を見てくるのは止めてくれないかな?全部お前が自身で招いたことだよ?分かってる?


 エリウスはしばらく「ぐぬぬ…」と唸っていたが、ふと一息吐き、騎士団長に顔を向ける。


「申し訳ありませんでした。宿舎に戻り謹慎します」


 ペコリと頭を下げ、くるりとこちらに身体を向け、歩いてきた。

 おい団長さん、何も言わないの?もう終わり?と思っているとエリウスがすれ違い様にボソリ…呟く。


「覚えていろユーリウス…」




『ドゴンッッッ!!』


「あっ」

「あっ」


「………はっ」


 …しまった、思わずぶん殴ってしまった。

 エリウスの方が背丈は高いものの、打ち下ろし気味に右を叩きつける。正門前の石畳に罅が入る程度に強目に殴ったので、しっかり白目を剥いて気絶。

 俺に殴られたエリウスの左頬からプシュ~と煙が出ているのは恐らく幻覚だろう…多分、きっと。


「よし、団長さん。案内お願いします」


「ええぇ………」

「ユーリウス様…」


 そんな残念な目を俺に向けるのは止めてくれませんかね…。

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