第200話 変化

 俺は元日本人の転生者として、ソレを止めなくてはいけない義務感に駆られていたので、国王セツナ=フォン=エクシアの『トランなにがし』を止め、伯爵級魔人の相手は俺がすることになった。

 正直なところ、国王の持つ『GMソード』もどうかと思うので、コレで良かったとは思っている。


 シーバスは引き続き、魔人の攻撃で周りに被害が出ないように警戒してくれな。


「かしこまりました。…しかし、私では護りきれるか…」


 ん?大丈夫大丈夫。さっき言ったろ?アイツ…お前より弱いぞ。


「…そうは見えませんが」


 どうもシーバスのモノクル型魔導具『能力査定スカウター』では伯爵級魔人の能力は看えていないらしい。

 …が安心していいぞ、俺がしっかりと証明してやる。


「ガキが…随分と好き勝手に言ってくれるな…。お前がこの俺に勝てるとでも?」


「…ん?そうだな…余裕だな」


「…ほう?」


 ニヤリ…と口角を上げる伯爵級魔人。煽りに弱そうな顔のくせにあまりは効果が無いようだ。…あぁ、顔はアレか…魔人に乗っ取られた伯爵の顔だからか…。

 中の悪魔は煽りに強いんだな…。とさりげなく元の伯爵を心の中でディスっておく。


「ガキがどこまで出来るのか…キッチリと本気で相手をしてやろう。後悔しても遅いぞ?」


「ふん…お前にはさっき待ってもらっていたみたいだからな。本気を出すならさっさとしろ。その姿じゃあ本気は出せないだろ?」


「はっ!分かっているじゃないか…。では遠慮なくそうさせてもらおうか」


 その言葉のあと、魔人の魔力が爆発的に跳ね上がり、紫色のオーラを吹き出す。

 ベキベキ…パキパキ…と気味の悪い音を出しながら、人間の姿だった伯爵の身体が変化していく。


 かろうじて伯爵の…人の姿を保ちつつも、その姿はまさに魔人。悪魔の羽と尻尾、角を生やし、少しだらしのない体型だった伯爵の身体は筋骨隆々な姿へと変化する。

 伯爵の着ていた貴族服はその変化に所々破けてはいるが、どうやらモザイクは必要無いようだ。…いや何の話だ。


「ふむ…元の姿は久しぶりだな」


 顔も変化し、既に伯爵の面影は微塵も無い。肌は薄褐色…というより黒い紫色に近いか。

 魔人は両の拳をグッ、グッと確認するように握りなおしている。


 その魔人の姿を初めて目の当たりにしたのか…周りの貴族や近衛騎士たちすら驚きの表情を見せる。国王と宰相らしきオッサンは見たことがあるのだろう、その表情に変化は無い。

 話からするとシーバスも見たことは無さそうだったけれど、シーバスの表情は分からんな。


「俺の準備はこれで良いぞ。ガキ、お前も準備が必要ならすると良い。そのくらいは待ってやる」


 強者感増し増しで言葉を発する魔人。周りの人間にはその言葉にも強い魔力が乗っているように感じるのかもしれない。


 まあ、そう言ってくれるのならお言葉に甘えておこうか。俺が本気を出す必要は全く無いが…あとで少しは言い訳が出来るようにはしておこう。


 そして俺は、何年か振りに『天使化』を発動する。

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