第176話 思わず…

 案内板を確認したあと、冒険者ギルドの受付に行こうとしたが、すぐに止められる。スーツのような制服に身を包んだ、人の良さそうなオッサンに声を掛けられる。


「先に総合の方で受付を行ってください」


「あっ、はい」


 返事をして、総合受付に進路を変える…が、あのオッサン…


「警備員…でしょうね」


「…だな」


 優しそうな顔と声だったけど、中身は…大分強いな…。武器は持ってないみたいだけど、大抵の奴はあのオッサンには勝てないんじゃなかろうか…。

 俺?…俺は余裕で勝てるよ。フロントチョークで十五秒で絞め落とせるね…ホント。


「私なら十秒で勝てますけれどね」


 張り合うんじゃないよシーバス君…。それにお前は俺より全然弱いだろっ。


 総合受付の前に到着。受付には二人の見目麗しい美女がお揃いの制服を着て並んでいる。これだけの美女だ、常に冒険者に絡まれたり口説かれたりしていそうだけれど…あのオッサンの効果、だろうな…。


「いらっしゃいませ。どちらに御用でしょうか?」


「冒険者ギルドに」


「かしこまりました、少々お待ちください」


 受付嬢はそう言うと、横に設置されている自販機程度の大きさの箱を操作。どうやら魔導具らしい…。

 ガコン…と音がすると木札が出てきた。数字と『冒険者ギルド』と書かれた木札だ。なるほど、自販機ほどの大きさなのは木札がいっぱい入っているからだろうな。


「こちらを持ってお待ちになって下さい。番号を呼ばれたら受付へどうぞ」


 受付嬢は俺の手を両手でソッと包むようにして優しく木札を渡す。

 …トゥンク。


 いや、トゥンクちゃうわ…。

 優しく手を握られたから、思わず惚れちゃうところだったよ。俺にはアイアリーゼさんという心に決めたひとが…


「ユーリウス様、早く行きましょう」


「あ、はい」


 しょうもないことを考えていたのがシーバスに読まれ、さっさと冒険者ギルドの受付前の待合所へ。


 しかし…アイアリーゼさんの姉妹か。そう言えば、姉か妹…どっちなの?


「確か…妹さんだったと記憶していますが」


 妹さんか…。きっと姉のアイアリーゼさんに似て美人で可愛いらしいひとなんだろうな…。脳内で夢想しながら、呼ばれるのを待つ。うん、字面が酷い…。


 あの警備のオッサンがいるせいか、変に絡まれたりすることもなく待つ。

 ヴァーチェの冒険者ギルドは酒場も併設されていたし、常に騒がしい感じしかしなかったのだが、ここは全然違うな。


 静か…なワケでは決してないが、雰囲気が悪いワケでもなく、なんだろうな…うん、やっぱり役所然としている。

 …が、かといって職員がお役所感を出しているかと言えばそう言うワケでもない上手く回っている…って言えば良いのだろうか。


 そうして、なんとなく観察をしていたのだが…


 受付カウンターに乗っている魔導具に俺の持っている木札の番号が表示され、同時に番号を呼ばれた…。

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