第141話 勝てる画が浮かばない

耐性系スキルの中で魅了耐性だけ持っていない俺は、恐らくアイアリーゼさんの魅了に掛かってしまっているのだろう…。このままでは、この後アイアリーゼさんに何を言われても頷いてしまう。………ヤられてしまうっ!


「用件はゴブリン迷宮でのことよ。本当は分かっていたのでしょう?」


「あ、はい」


全然そんなことは無かった………残念っ!


「俺は迷宮の外にいたから現場を見ていないが…二階層での夜営時に相当やらかしたみたいだな。報告…上がってるぞ」


あぁ、そりゃまあそうか。特に口止めもしてないし、安全のために付いていたとはいえ冒険者たちは監視役でもあるワケだからな。監督役のアラド君に報告するのは当たり前だ。

…で、ソレをギルドマスターであるアイアリーゼさんに報告するのも当然…か。


「………それで?囲い込みにでも来たのか?」


「………いや」


………?違うのか?………じゃあ、一体何しに…?


「確認………をしに来たのよ。冒険者たちの報告が本当かどうか…ね」

「まあ、報告してきたのが全員だったからな…嘘…ってことは無いと思ってる。ただ………この人がな…」


アイアリーゼさんが?


「ああ、ギルマスが『そんな面白…重要なこと、確認しないでどうするの?………呼び出しは?………来ない?無視された?………じゃあ行くわよ』ってな」

「ウフフ…今の………私の真似のつもりかしら?」


「すんませんしたぁっ!!」


アラド君の真似が似てるかどうかはともかく、アイアリーゼさんがそんなことを…?

俺がアイアリーゼさんに視線を移すとバチッと目が合う。………美しい…じゃなくて。


「ウフフ…だいたい本当のことよ。面白そうなのも本当だし、確認しなきゃいけないってこともね」


人差し指を立てて、バチコーンッとウインクするアイアリーゼさん。胸がドキドキする………本当に魅了とか使ってませんよね?


「…で確認………………させてくれる?」


何でそこでちょっともじもじしながら上目遣いなんですかね?

あざとい………あざといよアイアリーゼさん。


「頼めると助かるんだがな…」


「………………」


「無視しないでくれるっ!?」


ん?ああ、すまんすまん。無視するつもりは有ったり無かったり?


「ちくしょうっ!こいつやっぱり嫌いだっ!」

「ウフフ…落ち着きなさいアラド。まったく………A級冒険者がユーリウス君にいいようにされているじゃない」


「そういうギルマスもこいつを手玉にとってる感じですけどねっ!?」

「フフ…そう"見える"だけよ」


「っ!?ソレはどういう…」

「あとは自分で感じて、考えなさい。それでユーリウス君………返答は?」


正直、面倒だけど…使っているのは本当に土魔法だけだからな。バレてもまったく問題は無い。

そしてアイアリーゼさん………ギルドマスターだけあって底が知れない。

単純な戦闘力だけなら俺の方が上だろうけど………魅了されたらと考えると勝てる画が浮かばない。ま、戦闘になることなんて無いだろうけどな。


「しょうがないですね。庭じゃ狭いのでギルドの訓練場、貸してもらえます?」


こうして俺の振替休日が潰されるのは、やはり間違っている。

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