第142話 『ガタン』
冒険者ギルドへ向かうため、俺たちはゼハールト邸からアイアリーゼさんたちが乗ってきた馬車に乗り込む。
「ギルドまでお願いね」
「かしこまりました」
アイアリーゼさんが御者に言うと、パシッと手綱を操り馬車がカラカラと動き出す。
「ギルマス………何でそっちにいる?」
「ええぇ…別に良いじゃない」
「そうだぞアラド君。良いじゃないかアラド君」
今現在、四人乗りの馬車内で、アイアリーゼさんはアラドの隣…ではなく、俺の隣に座っている。そしてその豊かな
俺は
「ユーリウス…鼻の下が大分伸びてるぞ。あと君呼び止めろ」
無表情スキルなんて無かった。
ヴァーチェの街内は石畳が敷き詰められており、馬車の揺れを多少は抑えているが少し大きい段差があるとそれなりに大きく揺れる。
『ガタン』
『ぷるん』
『ガタン』
『ぷるん』
………ふむ。常々、馬車の揺れはなんとかならないか?と思っていたし、いつかアスファルト的な物を開発したり、魔法で整地してやろう、とかも考えていたのだが、コレは考え直さなくてはならないな…。コレはコレで良いモノだ。
あと左腕が幸せである。
しかし、ヴァーチェ内での移動である。冒険者ギルドへは然程時間も掛からず到着…俺の幸せボーナスタイムは終了となった。
くっ………ゼハールト邸がギルドからもっと遠ければ良かったのにっ!
「遠いと遠いで面倒だぞ…」
アラド君の言葉にハッとし、そりゃそうだ…やっぱ今の無し、と思い直す。というか心の声が駄々漏れである。
冒険者ギルドに入るとアイアリーゼさんとアラド君はそこかしこで声を掛けられていた。さすがギルドマスターとA級冒険者ってところか…。
「訓練場は空いてるかしら?」
受付に行き、お姉さんにアイアリーゼさんが聞く。
「今は一組使用中ですが、後十分程度で終了時間ですね。その後は二時間後まで空いています」
「そう、ありがと。ちょっと私たちが使うから、それまでは緊急時以外は誰も入れないようにお願いね」
「はい、通達しておきますね」
「よろしく」
そんなやり取りを済ませ、アイアリーゼさんとアラド君に連れられて訓練場前のスペースへ移動。待合室的な場所だと思うのだが、本当にスペースだけでテーブルはおろか椅子も置いていない。
待ち時間は大して無いが、ずっと突っ立ってるのもなぁ…。と俺は椅子を用意する。
『
壁沿いに魔方陣を浮かべ、二人掛けのベンチ程度の椅子を創り出す。なんてことはない、いつも通り『記憶』を利用した土魔法だ。
『
もちろん土魔法で創った物なので汚れはしないが硬い。なので、俺は『無限収納』からクッションを取り出し、椅子に置く。
「どうぞ、アイアリーゼさん」
「あら?ウフフ…ありがと」
アイアリーゼさんに座ってもらい、自然と隣に俺も座る。
おおっ!?再び俺の左腕に幸せが訪「おいっ!」………何かなアラド君?
「俺の椅子は?」
「無いけど?」
「ちくしょおおおっ!!」
ダダダッ…と走って行ってしまったアラド君。きっと椅子でも取りに行ったのだと思う…知らんけど。
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