第126話 ダンジョン突入前 講師の言葉
「というワケでよろしく頼む」
「よろしくね」
「ああ、よろしく…」
何が『というワケ』なのか、じゃんけん以外の理由があるなら知りたいが口には出さないでおこう。
一応の迷宮突入のパーティーメンバーが決まった。
俺のいるパーティーは斥候ではなく弓兵がいるパーティーになったが、バランスはまあまあ良いだろう。斥候は俺の『マップ』があるし、遠距離攻撃手がいた方が楽できるし…。
危なくならない限りは俺は手を出さず、口だけ出そうと思う。それでも十分だとは思うが。
「よぉーし、パーティーも決まったみたいだな!んじゃ説明すんぞ!」
講師の冒険者の声が掛かるとざわつきは収まり、説明が始まる。
「事前に言ってあるが、ここはゴブリン迷宮と呼ばれている初級迷宮だ。上層にはゴブリンしか出てこない。目標は迷宮三階層安全地帯に置いてある冒険者ギルドの紋章の入ったバッチを取ってくること。ゴブリンは無理に倒さなくても良い。以上だ。何か質問は?」
「地図とかはないんですか?」
生徒の一人が聞く。
「無い。………というよりわざと用意しなかった」
ザワリ…「え、なんで?」とか「わざと?」などと言う声がきこえる。…が理由はなんとなく分かる。
「冒険者にとって情報は命だ。事前にここに潜るって言ったろ?初心者用の初級迷宮だ、聞けば教えてくれるだろうし、地図も用意出来たんじゃないか?」
「なるほど…」
「そうだったんだ…」
「それを言っておいてくれれば…」
色々な声が聞こえるが、一歩間違えれば『死』が隣り合わせの世界だ。そして迷宮はその最たるモノ。
『情報は命』商売でも何でもそうだが金言だな…。
「それから…『装備』だけ揃えてきた奴ら。怪我をしたらどうする?回復役の魔力が枯渇したら?腹が減ったら?喉が渇いたら?暗い場所があったら?水に濡れる場所があったら?その辺り考えて準備したか?」
「「「………………」」」
「コレもギルドなり学校の先輩なりに聞けば教えてくれたんじゃないか?ちゃんと聞きに行ったりしたか?『装備』と言う言葉に浮かれて、買い物に行っていたんじゃないか?」
「「「………………」」」
今ここには俺を含めて生徒が十パーティー六十人いるが今の言葉に結構な人数が黙りこくる。ウチのクラスもそんな感じだったしなぁ。
俺?俺は無限収納に入ってるもん。あと魔力量もバカみたいに多いし。
「まあ、今回は『ソレ』を教え、感じてもらうために黙っていたワケだが、これで『情報』が如何に重要で大切か分かってもらえたと思う。今後も忘れずに、かつ自身で昇華していってほしい」
「「「はいっ!!!」」」
揃った返事が響く。
はしゃいでいたクラスメイトも他のクラスの奴らも、講師の言うことに納得し、飲み込んだようだ。良い講師じゃないか。
………この前、俺に拳骨を落とし、正座させた奴だけど…。
「そんな中…」
…ん?俺を見てる?何?来いってか?
テクテクとしぶしぶ講師の前に行くと肩を掴まれ、クルリと生徒の方を向かせられる。
………何だ?
「何でお前はっ、装備も着けないでっ、制服で来てんだっ!!」
ガッ!と俺のこめかみを中指の第二間接で挟みグリグリとしてくる。
「ぃ痛だだだだっ!?」
お、俺の防御力を越えてダメージだとっ!?こ、この野郎っ、指に『硬化』使ってやがるっ!?
この後、俺が痛みに悶える様を見た冒険科の奴らに笑われ、俺は『ペイッ』と投げ捨てられた。俺のこめかみから『シュー…』と煙のような物が出ていたのは
、多分気のせいだろう…。
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