第119話 お前には特別だ。これを持ってけ…

入学から一月が経過した。

冒険科は授業の一環として、休日を利用して初心者用の初級迷宮へと向かうことになった。

初級迷宮とはいっても魔物は当然出るので攻撃もされるワケで…。


冒険科のクラスメイトたちは装備を買い揃える前の下見に行こう!と盛り上がり、授業後に街に繰り出すことになっていた。

当然、そんな面倒なことは俺は辞退したのだが、『『ガシッ』』と両サイドの腕を女子に取られては逆らえなかったワケで…。


「何言ってんの?ユーリウス君が一番強いんだから、ちゃんと装備見てくれないと」

「そうそう!観念して着いてきてよね」


フッ………俺を何とかしたいのなら、その胸部装甲を皮の鎧からプレートアーマーにして出直してこい…なんて言えるワケもなく…。

俺は大人しく着いていき、買い物に付き合う羽目に…。


まあ、それ以前に『休日を使って』とかアホなことを言っていたので、当日は『隠密』を使って自主休講、もしくは自宅警備に専念する所存である。

バカ正直に言っても止められるだけだしね。


そんなワケで到着したのは、ここ十年でヴァーチェの経済を回し、治安の回復やスラム街の減少に大きく貢献した、現在は大手総合商会…


『グラム総合百貨店本店』


かつての前身はご存じ『グラム商会』である。現在は店舗を商業区の一等地に移し、ヴァーチェ最大の五階建ての店舗を構えている。

『総合百貨店』の名に恥じない品揃えに、貴族向けの商品以外は薄利多売の方針で商売をしているため、庶民からの人気は衰え知らずである。

俺は変わらず『グラム商会』と呼称しているが…。


まさかグラム商会にくるとは思っていなかった。

だって武器防具店と言えば、ちょっと小汚い店舗に厳つくて口が悪いオッサンがハンマー持ちながら出てくるのが定番だろ?それがテンプレってもんだろうっ!?

逆に俺は、折角来たんだから、それが楽しみだったのにっ!


「ソレは初心者が扱う物じゃねぇ」

「小僧………やるなお前…」

「お前には特別だ。これを持ってけ…」


みたいな展開を待っていたのに…。

くそぅ…話が違うぜっ!俺は帰るっ!と、そぉ~っと『隠密』を起動…する前に両サイドを固められていた。

…なん…だとっ!?

こ、これでは『隠密』を起動しても効果がっ!?


「さ、行くわよ、ユーリウス君」

「ちゃんと選んでよね」


ち、ちくしょうっ、逃げられないっ!

俺は両腕に理想郷アヴァロンを感じることなく、店内へと引き摺られていった…。

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