第101話 聞き慣れない声
九歳になり、十歳になる年。
上背も手足も伸びた俺は健やかに、というか比較的自由に過ごしていた。
小学校に行かない、という選択をした俺は朝をゆっくりゆったり過ごし「それを寝坊と言う」、少し遅めの朝食を優雅にいただき「だから寝坊だって」、紅茶を飲みながら読書を嗜んで「ほぼ引き籠りじゃな」うるさいな、さっきから!
モノローグにツッコムんじゃないよ義祖父さん…。
いいんだよ、十二歳、十三歳になったら学校に行かなきゃならなくなるんだから。今はまったりゆったりしたいの。
「今日はどうする?レベリング…行くか?」
「今日はグラム商会で打ち合わせの約束が有るから行かないよ」
「そうか…」
義祖父さんがショボーンとしても全然可愛いくはないが…
「セイ兄は?誘った?」
「セイリウスも今日は用事が有るんじゃと…」
既に誘っていたのか…。
セイ兄は今年十三歳になる年で第二次成長期が始まっているのか大分上背も伸び、顔の良さも相まって、現在美少年一直線である。
ちなみにレベルは30を越えていて、このヴァーチェでもその辺の中堅冒険者よりは全然強かったりする。
今度また付き合うよ…と義祖父さんに言い、俺はグラム商会へと向かった。
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「…なんで着いてきてるんですかね?」
「暇だったから」
そんなワケでレベルリングを断ったはずの義祖父さんはバッチリ着いてきていた。
いや、今日は本当に打ち合わせだけなんだけどな…。絶対何か楽しいことがっ!とか思ってるだろ。
グラム商会はゼハールト家の…といよりは俺のお蔭というか俺のせいというか、現在ではこのエクシア王国有数と言って良いぐらいの大商会に成長していた。それも、この六~七年の間にである。
うん………百パーセント俺のせいだな。
そんなグラム商会に訪れての今日の打ち合わせは『共同浴場』のオープンについて、である。
まあまあ真面目な話なので義祖父さんは終始つまらなそうな顔をしていたが、反対にグラム商会長はニッコニコだったのが印象的ではあったな。
薄利多売の方針で多くの平民を味方に付け、スラム街の減少に貢献したグラム商会は国の覚えもめでたく、なんと名誉準男爵位を賜っていた。
一代だけの爵位ではあるが、その効果、影響は大きい。
この爵位という信用を持って、共同浴場建設という大事業に踏み切ったのである。
もちろん、平民でも気軽に利用出来る値段設定、という条件で俺がアドバイザーになっているワケだ。
オープンまではもう少し時間が掛かりそうだが、現段階では順調に進んでいる、と言って良いだろう。
打ち合わせが終わり、空が朱に染まり始めた頃…本邸へ到着し、玄関まで着たところで…
『シーバスッ!これはどういうことだっ!?どうしてこうなっているっ!?』
『お母様…どういうことかしら?私たちがいない間に何があったのか………教えてくれる?』
怒気の混じった、聞き慣れない二つの声が本邸のエントランスホールに響いていた…。
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