第36話 義祖父

『マリウス=フォン=ゼハールト』

ゼハールト家の前当主にしてマイア第一夫人の父親。書類のうえでは血の繋がりは無いが俺の義祖父ということになる、が…。


ゼハールト家本邸のエントランスホールにて、並んだ使用人たちを前にして、マイア第一夫人となにやら話す義祖父。

俺とシーバスは食堂を出たところでその様子を窺っていた。


話し…というよりマイア第一夫人が自分に何があったのか、の報告だろうな…と思っていると…


「まだ来ぬのか、シーバスは…。ええいっ!…シーバスッ!!早く来んかあっ!!」


低音の渋い声が本邸中に響き渡る。………うるさ…。

シーバスはすでに俺に完全に忠誠を捧げているので、義祖父さんの声にはピクリとも反応を示さない。

ある意味、凄いスルースキルである。


「何?いつもあんなんなん?」


「先代は沸点が低いですから…」


「あぁ、むすめも受け継いじゃったのかぁ…」


「シーバス…仕える相手はちゃんとえらぼう…」


「反論の余地もございません…」


恭しく頭を下げるシーバスだが…多分、反論の余地………あるだろう?

…深くは聞かんけども…。


しっかし面倒だなぁ…と思いつつ、呼ばれているのはシーバスなので、シーバスを俺の前に、俺はシーバスの斜め後ろに着いていくかたちでエントランスホール、義祖父さんのところに行く。


「シーバス、ようやく来…ぬ?」


ま、当然俺に気付くわな。


「セイリウスではないな…となると…」

「お父様、あれがユーリウスです」


あれ呼ばわりですか、そうですか。第一夫人は天罰が足りなかったらしい。じゃあ追加だな…と思っていると義祖父さんがシーバスの横を抜け、俺の目の前に立ち塞がった。


「貴様がユーリウスか。庶子の立場も弁えず、色々やらかしたようだな。どうなるか………………分かっておるのか?」


なるほど…伊達に歳を重ねてないね。それなりに迫力はある。それなりに…ね。


「三歳の子供だと思って容赦はせんぞ。貴様には確りと立場というものを教えてやろう。覚悟しておけっ!」


どっかで聞いたような言葉ばかり並べてくるね、この義祖父さんも…。

まあ、容赦しないのは俺も同じ…前世の裏切りやらなんやらで、終いには殺されちゃってるからね。前々世…日本人の頃の倫理観なんてとっくに無いよ?老若男女、等しくやるよ?『敵』には。


…だから俺は言う。

義母だろうが義祖父だろうが俺の敵ならば…


「アンタがどれだけの力をもっているか知らないけど………俺のてきなら、アンタじしんがかくごしろよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る