第12話 一歳!

無事一歳を迎えた。

身長は伸びたが未だドアノブには届かず、高い壁は高いままである。

母親であるレイラ母さんもセバスさん、メイさんも俺が歩きまわるのに慣れ、室内から出ようとするとドアを開けてくれるようになったのは幸いである。

しかし、そこに新たな壁が現れた。そう…階段である。降りることは辛うじて降りれるのだが昇るのは足が短くて駄目だった。………泣ける。

まあ、そばに誰かいれば抱っこして昇ってくれるのだが。


準男爵家の別邸のようだが二階建てとは…財政的に余裕があるのだろうか?

まあそれはいいか。


一歳を迎えたことで俺の食事は離乳食に切り替わった。やっとあの嬉し恥ずかしお食事タイムから解放されたのである。………残念とか思っていない、ホント。

しかし切実に思う…もっとしょっぱいのとか濃いのとか食べたい、と。まあ今のこの身体にはまったくもって良くないが…。しばらく我慢だな。


一歳になって変わらないモノ…というか治らないモノ、かな?おねしょは何故か未だに治らない。生理現象だからしょうがない、と思わないでもないが…俺の精神的には治って欲しかった。

というワケでオムツ交換タイムは継続中。………くっ、殺せ!


一歳になると言葉もいくつか話せるらしい、とは鑑定先生調べ。まあ、まだ舌っ足らずで辿々しいが…


れいかレイラかあたん」

てあすセバス

めえいメイ


と言葉を発した時は、またも三人とも泣かせてしまった。さらに喋れるようになったらまた感動させて泣かせよう。


ちなみに、試しに『舌』に強化魔法とか使ってみたが、さすがに意味が無かったことを報告しておこう。


三歳上の兄、準男爵家四男のセイリウスと会うことが出来た。

どうやら三歳から一年間、本邸に出向き教育を施されていたらしいのだが…


「ボクもこっちの家がいいな…」


泣きそうな笑顔で言ったその言葉に、俺の胸がざわついた。

まだ一歳でしかない俺からかける言葉は見つからない。なら…


『ぱふっ』

「にいたん…」


四歳の兄に抱き着き、一言だけ。


「ユーリウスはやさしいね」


そう言い抱き締め返してくる兄の声に、俺は『ギュッ』と手に力を入れた。


その夜、俺は横になりながら考える。

未だに顔を見せない父親。なかなか会うことが叶わなかった母親と兄。産まれてからずっと別邸にいる俺。

正直、コレが貴族の常識だとはとても思えない。それともこの世界では当たり前のことなのだろうか?


ゆっくり身体の成長を待とうと思っていたが、できるだけ早く行動した方が良いのかもしれない。

俺がどうこうされるのなら、もちろん全力で反撃するからいいのだが、家族がされるのは黙っていられないからな…。

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