最終章バイオリン工房カッツェン
奏の運営する工房に新しいお弟子さんがやってきた。バイオリンを作りたくて工房を探す少年。彼の希望を聞いていて、かつての自分を思い出した。簡単に引き受けるべきではないと思いながらも何度も厳しく自分に問いかけても無下に断ることが出来ず受け入れることにした。
やりたいことを見つける事は難しい。叶えるために出来ることは限られる。年齢もタイミングも重要だと思う。出来れば…その一助に成ればと話を受けた。
高校生の間通って、どうしても続けたければドイツに留学する。奏はその道しか知らない。
他にも週に一度バイオリン作りを経験してみたい人のためのコースも作ることにした。バイオリンに親しんで欲しい。弾くのも造るのもどちらでもバイオリンを知ってもらいたいと奏は願っていた。音楽仲間の蘇芳たちとの時間は掛替えがない。そう思うから、生活の中に音楽があるのは良いことだと思ってきた。
香ちゃんとの出会いも、バイオリン大好き少年との出会いも、もちろん里美ちゃんとの出会いも音楽が引き合わせてくれた。
この工房で、のんきに猫を感じながらバイオリンを造るのは幸せだ。心を込めて造ろうと日々励んでいる。
温かい昼下がり、ジンジャーがついにこの家に帰ってきた。家主が変わって戸惑うかと思えば、奏には目もくれず、上村の言っていたジンジャーの定席に横たわって休憩を楽しむ。
そろそろ仔猫の乳離れもすんで出かけられるようになったんだろうか…目を上げるともう一段上の棚でミケ太も就寝中。これでクレオがいれば昔のアトリエの景色なんだろうけれど…
奏は二匹に気づかれないようにこっそりメールを送る。そういう契約が続いているから…写メを撮るのがだんだん上手くなる。
バイオリン工房カッツェン @wakumo
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