第111話 偽たくあん聖女25
「クロードさん」
「ん?」
「私、今回のことで思い知りました」
「思い知った? 何を?」
「クロードさんのことが、自分で思っていたよりも大切だったと言うこと」
2人で並んで部屋のソファに腰掛け、お水を飲みながら今日あったことを振り返る。
大切な夫婦の時間で、私の1日で1番好きな時間だ。
「クロードさんからの愛情って、出会ってからずっと変わらないじゃないですか」
「むしろ増してるよ」
「はい。それはもうひしひしと感じています」
漏れ出てるからね、いろいろと。
「時々、私は同じだけの愛情を返せているのか、疑問になるんです。クロードさんのことを愛しているけれど、クロードさんと同じだけの狂愛──コホンッ、大きな愛を返すことができてるのかなって」
自分で言うのもなんだけど、私は割と恋愛に対して熱い人間ではない。
クロードさんへの思いを自覚する前は、結婚とは恋愛の延長線上にあるものではなく、家と家を結びつかせるためのもので、私がすべきは恋愛ではなく国民の安寧のために働くという役目を遂行することだった。
だからだろうか。
若干恋愛に対して鈍いところがあるし、冷めたところがある。
そんな自分を知っているからこそ、私は実はクロードさんのことは恋愛ではなく刷り込みで好きなんじゃないかとか考えることもしばしば。
「でも今回の件で、私がどれだけクロードさんのことを愛しているのか、理解できました。私も大概、クロードさんに負けないくらい、あなたのことを狂愛しているようです」
参った。
降参だ。
そう苦笑いをして目の前の夫を見上げると、ぽかんとした顔でクロードさんが私を見下ろしていた。
それからクロードさんは、右手で顔を覆って俯きながら「はぁぁぁぁ〜……」と大きくため息をつく。
「? クロードさん? おーい──っ!?」
声をかけたその刹那、私の腕ががっしりとその大きな手に掴まれた。
「リゼは本当、俺のこと翻弄してくれるよねぇ。ますます好きになっちゃうよ。……ねぇリゼ。実の妹を巨大たくあんで潰しても良いってくらい愛してくれて……、俺のことを家族にしてくれてありがとう」
「うあぁぁぁっ!! そのことは忘れてくださいぃぃっ!! クララさんに話したら……話したら……きっとまた変な噂になる……!!」
そう、あの『幻のたくあんビンタ』の時の如く。
あの人の情報拡散能力は尋常じゃないんだから。
「あ、ごめん。もう話しちゃった」
「はい!? いつの間に!?」
「城からの帰りに食堂に寄っただろう? リゼが神殿の方に顔を出している間についぽろりと」
ついぽろりぃぃぃぃぃい!?
ついぽろりで私のプライバシーは広められるのか……。
あぁ……仕事への復帰が憂鬱過ぎる。
「ふふ。これから増える新しい家族にも、リゼのかっこいいところをちゃんと伝えてあげないとね」
これから……増える?
家族が?
家族ぅぅぅぅ!?!?
「ちょ、ま、これから!?」
「増えるよ、すぐにね」
その予言が当たるのは、遠くない未来。
だけどこの時の私には知る由もなく、私は夜通しクロードさんの愛を受け続けるのであった。
──後日、クロードさんがクララさんにぽろりと話した『巨大たくあんで偽物を潰した』という話はあっという間に広まり、市民の間でちょっとした噂になった。
だけど、そんな平和な噂に右往左往する日々を愛おしく感じている私がいるのは、言うまでもない。
きっとそんな日常が、これからも続いて、私の宝物になっていく。
私のこれまでよりも。
私のこれからの方が、きっともっとたくさんの宝物が増えていくだろう。
だからきっと、大丈夫。
胸の隙間は、そんな宝物達が埋めてくれることを、私は知っているから──。
【偽たくあん聖女 END】
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