第102話 偽たくあん聖女16


「あなたたちかしら? 私を、たくあん聖女を探している兄妹っていうのは──」


 プラチナブロンドの長い髪。

 白いドレス。

 そして──ピンク色の瞳。


 アメリアだ──!!


「本当にこの時間でもやって来たな……」

 まさか本当に来るとは……、と呆れたようにつぶやくラズロフ様に、私は苦笑いを返した。

 考えなしなんです、うちの双子の妹。


「あ、あぁ、確かに僕たちはたくあん聖女様を探しているが……まさかあなたが……?」

 ラズロフ様が表情を取り繕うと演技を続行する。


「えぇ、いかにも。私がたくあん聖女のリゼリアよ。あなたたち、聖なるたくあんを欲しているようだけれど、対価はちゃんと払ってもらえるんでしょうね?」


 お金取るの!?

 正気!?

 聖女は対価を要求したりはしないわよ!?

 ご好意で色々くださる方はいるけれど、今までこちらから要求したことなど一度もない。


「は、はいもちろん。ここに──」

 まるで対価を要求してくるものだと分かっていたかのように躊躇いなく金貨の入った袋を上着のポケットから取り出す。

 袋はパンパンに膨らんでおり、金貨同士がぶつかる音がすることから相当な額の金貨が入っていることがわかる。

 え、兄さん、ポケットマネー!?


「まぁ!! よくわかっているじゃない!! 交渉成立よ。その金貨と聖なるたくあん一本で手を打ってあげる!!」

 そう言って自分が持っていた白い袋を漁りたくあんを取り出そうとする彼女に、ラズロフ様が「ちょっと待ってください」と待ったをかけた。


「何よ? それが惜しくなったの? いいの? 私のたくあんがなかったら、母親、死んじゃうんじゃないの?」

「っ!!」


 これはお芝居だ。

 実際に病に臥せっている母親はいない。

 それでも彼女のその、あまりに人の心を考えない言いように、私は眉を顰めた。


「ですが、これはその母のためにも必要な確認なんです」

 ラズロフ様がいたって冷静にそう口にすると、目の前の女は怪訝そうに「確認ですって?」と首を傾げた。


「はい。街で聖女様の居所を尋ねて回ったところ、あまり良い噂を聞かなかったのです。そこで僕たちは、たくあん聖女は本物と偽物がいるのではないかという考えに至りまして。不躾で申し訳ありませんが、あなたが本物のたくあん聖女様であるのかを確認するため、いくつか質問させていただきたいのです」


「質問? 良いわよ。なんでも質問すればいいわ。私が本物なのだから、なんでも答えてあげられるわよ」

 自信満々にそう言い切った彼女に、ラズロフ様が口元だけニヤリと笑った。


「じゃぁあなたのスキルは?」

「もちろん、たくあん錬成スキルよ」

「あなたの名前は?」

「リゼリア・カスタローネよ。あぁでも、養子になってラッセンディルになったわ」


 もうグラスディルだけどね!!

 そこからすでにあやふやだけど、自信たっぷりの彼女は「楽勝ね、次は何かしら?」と言いながら次の質問を待っている

 その自信どこから来るの!?


「好きな菓子は?」

「お菓子はあまり好きじゃないわ」

 大好きですが何か?

 アメリアの前でお菓子を食べると「お姉さまのお菓子の方がおいしそうよ、ずるいわ」と言ってうるさいから食べなかっただけで、私はお菓子、大好きだ。


「ではあなたの元婚約者の名前は?」

「ラズロフ様よ」

「ならそのラズロフ様の王太子時代の私室に置いてあった花瓶の色は?」

「は? え、ちょ、何それ」


 あ、狼狽うろたえ始めた。

 ラズロフ様の部屋に通されたことのある人間ならば一度見たら忘れることはないだろうその花瓶の色。

 え、もしかしてこの子、まだ部屋に通されたことなかったの?


「──なんて、僕みたいな平民にはわからないんですけどね」

 ハハッ、とけろりと笑ってみせたラズロフ様に、あからさまに安堵の色を浮かべる目の前の女。

「でもそれだけわかればきっと本物ですね。さ、この袋をどうぞ。代わりにたくあんの方、よろしくお願いします」

 そう言ってラズロフ様は、ガチャガチャと鳴るそのパンパンになった袋を女の方へと差し出した。


 え!?

 あげちゃうの!?


「ふふ。じゃぁこれ、どうぞ。聖なるたくあんよ」

 ニンマリとした笑顔を浮かべてラズロフ様からその袋を受け取ると同時に、彼女は私に自身の袋から取り出した長くて太い黄色いものを手渡した。


──ナニコレ。


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