第二章
第73話 友好国晩餐会①
私とクロードさんが結婚して1ヶ月が経った頃、フルティアとベジタル、そしてベアロボス、この3国の友好条約締結を記念して、ベジタル王国で晩餐会が開かれることになった。
その晩餐会の食事の相談役として抜擢された私は、ここ最近ベジタル王国とフルティアを行ったり来たりと忙しくしている。
ベジタル王国は貿易を盛んに行うようになり、さまざまな食材を口にするようになったけれど、まだまだその食材を調理する技術は発展途上だ。
フルティアの城の料理人をベジタルの城へと派遣してその技術を叩き込んでいるけれど、まだまだ教えることは山ほどあるようで、晩餐会当日は私もたくあん料理担当、そしてベアロボスの食事担当として厨房に立つ。
もちろん、フルティアの代表として、王太子殿下、クロードさんと一緒に晩餐会にも出席するので、その準備でも大忙しだ。
「リゼ、ハンカチ持った? 催涙スプレー持った? 忘れ物はなぁい?」
「催涙スプレーなんて持って行きませんから!!」
ベジタル王国へ渡る前に、一度行ってきますを言いに神殿食堂へと立ち寄らせてもらった私は、クララさんによって身支度チェックを受けている。
私は子どもではないのだけれど、それでも結婚してからも何かと世話を焼いてくれるクララさんに、少しばかりくすぐったく感じる。
「そうだよ。催涙スプレーなんてなくても、俺がいるから安心でしょ?」
クララさんの身支度チェックを受ける私を自分の方へと引き寄せ、肩を抱くクロードさん。
「あんたが1番心配なのよこのケダモノッ!!」
「ひどいな。俺は普通にリゼを愛でてるだけなんだけど」
「あぁもうっ!! 向こうにはラズロフなんてケダモノまでいるっていうのに、これで心配じゃないなんてどうかしてるわよ!?」
「ラズロフ様はケダモノじゃないですよ」
「ケダモノ2人に囲まれるなら催涙スプレーは必須じゃないのぉぉぉおっっ!!」
私たちの言葉を聞くこともなく1人発狂し続けるクララさん。
安定の過保護だ。
「大丈夫だよ、クラウス。私もついてるから」
そう言って食堂に入ってきたのは、クロードさんのお兄様である王太子殿下。
レイラ様は先日2人目のお子の存在がわかり療養に入っているため、ベジタルには同行しない。
「こうなったらあんただけが頼りよ……!! うちのリゼをちゃんと守ってあげてね……!!」
ガシッと王太子殿下の両肩を掴んでその威圧感たっぷりの顔面を近づけて言えば、王太子殿下は「あ、あぁ、任せておいてくれ」と苦笑いを返した。
「それじゃ、クララさん。いってきますね」
「えぇ。気をつけてね、リゼ」
朝早くに王都を出発した私たちが城についたのは、翌日の朝になってからだった。
「ようこそおいでくださいました」
にこやかに私たちを迎えてくれたのは、国王になったカロン様だった。
その隣ではむすっとした表情でラズロフ様が控えている。
カロン様はおっとりした性格で慈悲深く、少し判断が甘いところがある。
対してラズロフ様は若干高圧的でプライドが高く、自分にも他人にも厳しい。
正反対のお二人は、今、力を合わせてベジタル王国を発展させようと日々奮闘している。
「出迎え感謝する、カロン殿。そしてラズロフ殿」
「あぁ。せっかくで申し訳ないが、リゼリア。厨房で最終の打ち合わせと仕込みを頼む」
「わかりました、ラズロフ様。クロードさん、行ってきますね」
ついてきてくれ、と私たちに背を向け歩き出すラズロフ様のあとを、クロードさんに一言断ってついて行こうとすると、クロードさんの手が私の腕を絡め取った。
「俺も一緒に──」
「クロード殿は、僕たちと一緒に書面チェックをお願いします」
「クロード、貿易関係はお前にも仕事を任せてるんだ。こっちで共に見てもらわねば困る」
一緒に来ようとするクロードさんを、カロン様と王太子殿下が引き止め、クロードさんは悔しそうに眉を寄せて私の腕を離した。
「ふっ……夫というよりも、むしろ飼い犬だな」
小馬鹿にしたようなラズロフ様の発言に、カロン様が「兄上」と呆れたように兄を嗜める。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえないね。おや奇遇だ、君も犬じゃないか。負け犬っていうね」
「これ、クロード」
こちらは王太子殿下がやれやれ、と肩をすくめて嗜める。
ラズロフ様とクロードさん、2人の視線が交わり、バチバチと火花が散りあった。
全くこの2人は。
これで意外と貿易関連では意見が合うのだから驚きだ。
「心配しないでください、クロードさん。晩餐会のお料理、楽しみにしていてくださいね」
「……わかったよ。気をつけて行ってきてね、リゼ」
渋々ながら頷いたクロードさんに小さく手を振り、私はラズロフ様と一緒に城の厨房へと歩みを進めた。
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