第43話 一難去ってまた一難


 ベアル様の晩餐は、魚のほぐしのおにぎり3つにたくあんおにぎり3つ、そしてシンプルな味付けで焼いた肉に、茹で野菜にカボンのスープ。

 ベリーを使ったケーキを添える。

 どれも匂いを抑えて、狼獣人でも食べられる食材を使った料理だ。


 晩餐の席にやってきたベアル様はそれらの料理を見るなり「わぁ、お、美味しそうです!!」と目を輝かせた。


 ベアル様の汚れなき笑顔が眩しい……!!

 そして尻尾が微妙にふりふり揺れてるのがもうたまらない……!!

 あぁ……もふもふしたい……。

 クロが恋しい……!!

 ベアル様、もふもふさせてくれないかしら……?


 そんな私を、クロードさんが横目でじっとりと見る。

「リゼさん? 俺以外に欲情しないでね?」

「なっ!! 人聞きの悪いこと言わないでください!! 私はただ、ベアル様に喜んでもらて嬉しいだけで……!!」


 どうしてこうも人を痴女に仕立て上げようとするんだ、この人は。 しかも欲情とかしてないし。ちょ、ちょっともふもふしたいなぁとか考えただけじゃないか、失敬な。


「はっはっは。愛されておるな、リゼリア嬢。だが、クロードが鬱陶しかったら殴っていいぞ」

 豪快に笑いながら、国王陛下が揶揄からかう。 


 いやそれは流石の私でもできない。

 曲がりなりにもこの人第二王子殿下だし。

 それにこんな美形殴ったら世の女性達からどんな目にあうか……。

「は、はは、本当に鬱陶しかったら、そうさせていただきます」

 当たり障りなく苦笑いしながら答える。


 国王陛下も、他の皆様も、ベアル様の反応に嬉しそうに笑みをこぼしている。

 あの、料理を一目見るなりにすぐに部屋に戻ってしまっていたベアル様が、料理を見て嬉しそうに笑ったのだ。顔も綻びもする。


 けれどそんな幸せで浮かれた気持ちは、そのあとすぐに鎮静されることとなった。



「あの……だけど僕、これ、部屋でいただきますね。失礼します」

 それだけ言って、ベアル様は護衛たちを引き連れ広間から出ていった。


「──へ?」

 

私もクロードさんも、そして国王夫妻王太子夫妻も、呆然として彼が出ていった扉の方を見る。

「え……美味しそう、って言ってたよね、今」

「は、はい。確かに……」

 なのになぜ?

 まだここでは食べられない理由があるっていうの?

 匂いも、食べてはいけない食材も気をつけたのに……。

 俯きそうになる私の肩に、そっと大きな手が触れた。


「──クロードさん……」

「大丈夫だよ、リゼさん。一つひとつ考えていこう。俺も一緒に考えるからさ」

「はい……そうですね」

 優しく微笑むクロードさんに力なく返事をして、私は自分の食事に向き合った。


 美味しいはずの料理長の料理なのに、新たな問題と謎によって私にはなんの味も感じることができなかった。


 そしてその後、ベアル様からきれいに全て完食された皿が返却された。


【美味しかったです、ありがとう】

 と言う、短いメッセージカードとともに──。




─後書き─

カボンはカボチャのことです( ´ ▽ ` )

ベアル様問題、なかなか手強し。。

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