第35話 既成事実推奨されてます
「詳しく、お聞かせくださいませ」
覚悟はできている。
何より、私がクロード殿下やクララさんの役に立ちたい。気にする身分ではなくなった今、私がしたいことは彼らを助けることだ。
「ありがとう。では早速、あなたには1週間ここに住んでいただき、ベアル王子の食事を担当していただきたい。そして1週間後の晩餐会で、ベアル王子が皆と食事を取ることができるようにしていただきたいのだ」
「ベアル王子は、人前以外では食べるのでしたよね?」
私が確認するようにクロードさんへと言葉を投げると、
「あぁ、そうだよ」
と彼は短く答えた。
「では一度その料理を見せていただけますか? 何を食べて、何を食べなかったのか、料理長にお聞きしたいのですが……」
食べないには食べないなりの理由があるはず。
人前では食べず、一人ならば食べるもの。
その共通点。
いろんな状況から考えていかないと、本当に必要なものは得られない。
「ふむ……そうだな。後ほど部屋へ料理長を向かわせよう。クロード、彼女を部屋へ案内しなさい。あぁ、クラウスは残るように。久しぶりに城下の話を聞かせておくれ」
そう言って陛下は息子──クロードさんに向かってウインクを飛ばした。陛下が全力で私たちをくっつけようとしているように見えるのは気のせいかしら……。
「わかりました」
クロードさんが陛下に返事をしてから前に出て、私の方へと右手を差し出す。
「行こう、リゼさん」
「は、はい!!」
微笑ましそうに見守る周りの視線に居た堪れなくなった私は、すぐに彼の手を取ると、彼と揃って謁見の間を後にした。
「──さ、ここだよ」
「……」
与えられた部屋を見て、私は言葉を失った。
だって……こんな──。
こんな素敵な部屋を貸してもらえるなんて!!
パステルイエローの落ち着いた壁紙に、色とりどりの花が生けられた花瓶が至る所に飾られている。装飾はそこまで華美ではないけれど、とても落ち着きがあって上品で、素敵なお部屋だ。
「あの、本当に私がここを使っても?」
あまりにも素敵な部屋に、私はクロードさんに確認をとる。
「あぁもちろん。あなたのために用意させたんだから、使ってもらわないと困る」
苦笑いしながら私をエスコートして、部屋の奥へと進んでいくクロードさん。
わぁ、ベッドも大きいしふかふか!!
こんなベッド久しぶり。まさかまたこんな部屋で暮らす日が来るなんて、夢にも思わなかったわ。
公爵令嬢という肩書きに戻ったのもそうだけれど、人生何が起こるか本当にわからないものだ。
あれ?
なんだろうこの扉。
ベッド近くの壁に扉がついていることに気づいた私は「この扉は?」とクロードさんに尋ねた。
あれかしら?
危険な時に入る隠し扉的な?
あ、でもそれならこんな目立つところにあったらダメよね。すぐに見つかっちゃうもの。
ならこれは一体……。
「あぁこれ? これはね──隣の俺の部屋へと通じる扉だよ」
────はい?
なんて言った? この人。
隣のクロードさんの部屋に?
いやそれじゃまるで……。
「夫婦の部屋みたいじゃないですか!!」
頬を熱くしながら私が声を上げるとクロードさんは、
「ここは特になんでもない予備の部屋だったんだけど、リゼさんの部屋に改装するにあたって壁をぶち抜いて扉を作らせたんだ。何かあったら……いや、何もなくてもいつでもおいで。あぁ、なんなら夜這いかけてくれても大丈夫だからね♡」
と、なんてことはないように言い放ちがやった。
ゴホンッ。
つい動揺のあまりお口が悪くなってしまったわ。
ていうか、人を痴女扱いするのはそろそろやめてー!!
なんだか、外堀を埋められるどころか既成事実を作らせようとしてる?
私……1週間無事でいられるんだろうか……。
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