第33話 SIDEクロード



 俺の初恋の女性が婚約者から婚約破棄をされたと聞いて考えもなく国を飛び出し、生き倒れたところをその初恋の人本人であるリゼリア嬢に拾ってもらったのは、もう数ヶ月も前のこと。


 彼女は毎日、元気に健やかに過ごし、食堂やこの街に全体に馴染んでいった。

 やっぱりここに連れてきて正解だった。元気印の我が叔父、クラウスがそばにいてくれる環境は、彼女にとって良かったんだろう。

 にしても、初恋のリゼさんが俺の国に、それも俺の職場の食堂にいる……。


 毎日顔を見て、毎日話をして、彼女の手料理を食べて……。

 俺は死ぬのか?

 フラグなのか?

 幸せすぎるだろう。俺のリゼさんが可愛すぎて尊い……!!


 そんな彼女が追放される原因になった【たくあん錬成】スキル。


 初めて会った日に食べて驚いた。

 塩みのある味の中にほんのりとした甘味。

 今まで食べたことのない味だが、とても美味しい。だがそれよりももっと驚いたのは、その力だ。

 飽きることなく食べることのできる不思議な感覚。そして体の奥底から湧き上がる力。

 そして重傷を負っていたジェイドの傷を癒したことから、疑問は確信に近いものとなった。


 俺は浮かんできた疑問をクラウスと神殿長にのみ話し、クラウスにはそのスキルの調査を、神殿長にはたくあん自体の鑑定を依頼した。


 思った通り、彼女のスキルは光魔法によるものだった。

 なぜそれがたくあんを通してなのかはわからないが、彼女はれっきとした聖女のようだ。


 そう、彼女が期待されていた【予言の聖女】だったのだ。


 それをみすみす逃したベジタル王国王太子のなんと愚かなことか。

 たくあんが食べ物だと言うところ以外鑑定できなかった鑑定士には、礼を言わねばならないな。

 おかげでリゼさんをあの馬鹿王太子の妻にせずに済んだのだから。


 そして今。

 ベアル殿問題で彼女に協力を仰ぐことになり、不本意ながら父上や母上、兄上、ベアル殿に彼女を紹介することが必要不可欠となった。


 平民であれば立場上他国の王子に紹介することは難しいが、聖女としてならば話は別だ。

 まぁ、後ろ盾として自分が彼女を養子にすると言い始めたクラウスには驚いたが。


 彼は王位継承権を放棄することを早々に発表し、結婚も興味がないからと拒み、臣下に降っても、自分は神殿で働きたいから爵位はいらないと駄々をこねた変わり者だ。

 それでは王家の面目が立たないからと、無理矢理に爵位は押し付けられたらしいが、それも一代限りでとクラウスの方から申し出たそうだ。


 そして彼は、身分と顔を偽って、神殿の、しかも食堂で働き始めた。

 活き活きしているクラウスを見ていると、こっちが本当の彼なのだろうとは思う。

 だが好きなことをしながらも、平民の近くでそちら側の意見や考えを王に進言する、パイプのような役割をしている。


 よっぽど情が湧いたんだろうなリゼさんに。

 結婚したらアレが義父になるのか?

 ……ちょっと嫌だな。


「クラウス・ラッセンディル公爵。リゼリア・ラッセンディル公爵令嬢!!」


 名が呼ばれ私の意識は現実へと引き戻される。

 大きな扉が開いて姿をあらわした淑女に、私は息をのんだ。


 プラチナブロンドの髪をまとめ上げ、深紅のドレスを身に纏い、背筋を伸ばし堂々とこちらを見据え歩き進む。


 美しく誇り高き公爵令嬢が、そこにいた──。


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