第6話 痴女認定された元公爵令嬢です
「──第二王子殿下だったんですか?」
「うん。継承権は早くに放棄してるけどね」
国境を越えた先の野原を歩きながら、なんてことはないようにさらっと返すクロードさん、いや、クロード殿下。
「私のことも気づいて──?」
「うん。名前を聞いた時にまさか、って。助けられたのは本当に偶然だけどね。俺たち、小さい頃に一度だけ会ってるんだよ」
ふふっと朗らかに笑いながら落とされた爆弾発言に、私は思わず歩みをぴたりと止める。
「はい!?」
「俺が13歳、貴女が10歳の時にね。こちらとフルティアとの貿易会議の場についてきた俺は、城でたまたま貴女に出会ったんだ。あぁ、出会ったって言っても、城内の廊下でぶつかったってだけなんだけどね」
そう言って苦笑いを浮かべた殿下は、国境の門をくぐってすぐの町に入るための門を指さして「あの町で休憩しよう」と呑気に言った。
まさか私と殿下が出会っていたなんて……。
しかも私、それを忘れているなんて……。
10歳といえば、ちょうど王太子との婚約が決まって、王妃教育が始まった頃。その教育についていくことに必死すぎて、他のことなんて気にしている余裕なんてなかったんだと思う。
王妃教育はとても厳しいものだったから……。
「クロード殿下!!」
「殿下!! お帰りなさい!!」
街の門へとたどり着くと、門番の騎士達がぞろぞろと殿下に駆け寄って来た。
「あぁ、ただいま」
にこやかに返事をする殿下。
飄々としていて、気さくで、話しやすい彼は、騎士たちにもとても人気のある方のようだ。
「朝も早くに隣国で令嬢が婚約を破棄されたと聞くなり飛び出していったかと思えば、いつまで経っても帰ってこないので心配しておりましたぞ」
年配の騎士が口ひげを撫でつけながら笑った。
ん?
隣国で?
婚約破棄?
聞き覚えのあるワードに彼を見上げると、殿下は額に汗を浮かべながらほんのりと頬を赤く染めて「は、はは……」と飄々とした笑顔を崩し、誤魔化し笑いをした。
「心配かけたね。お金を持っていくのを忘れて、お腹が空いて倒れていたんだよ」
なんとも残念な殿下だな。
「その方は?」
私の方にチラリと視線を移すそばかす顔の騎士。
「あぁ、この人は俺の大事な人だよ。ね、リゼさん?」
「は!? 何を……!!」
「(話を合わせて)」
小声で耳打ちされて、耳にかかる吐息に鼓動が跳ねる。
「食堂を使っても良いかな? 俺たちお腹ペコペコなんだ」
マイペースを崩すことなく殿下が言って、騎士は慌てて「は、はい!! どうぞお使いください!!」と姿勢を正した。
「ありがとう。行こうか、リゼさん」
言うと、私が口を挟む間も与えることなく、殿下は私の手を引いて門のそばにある大きな建物の中へと足を進めていった。
建物の中には長机がいくつも設置してあり、奥では料理人達が忙しそうに腕を奮っている。そこへ私たちに気づいた若い騎士が「殿下!! 食事っすか?」と声をかけてきた。
「あぁ、個室、空いてる? 彼女とゆっくり話しながら食べたくて」
「あ、はい! 空いてますよ!! こちらへどうぞっす!!」
そう言って若い騎士は私たちを奥の方の扉へと案内した。
カチャリとドアを開けると、少し広めの客間のような部屋が広がっていた。
丸テーブルと2脚の椅子が置かれているだけだけれど、それらも作りがしっかりして、デザインも上品なものだし、床を彩る赤いカーペットも上質そうな質感をしていて、この部屋自体、地位が高い人の使う場所だと言うことを察するには十分だった。
「クロード殿下、二人っきりだからって、変なことしちゃダメっすよ!!」
揶揄うようにニヤリと笑った若い騎士に私が反論しようと口を開こうとすると、
「しないよ。俺紳士だし。どっちかというと、されちゃうかも。……ね? リゼさん?」
こちらにニンマリと意地の悪い顔を向ける殿下。
途端に若い騎士は「ぁ……え、そういう……!! じゃ、じゃぁ、ごゆっくりぃぃ!!」と顔を赤くしてから部屋から出ていってしまった。
「ご……!!誤解よぉ〜〜〜〜〜〜〜!!」
私、元リゼリア・カスタローネ。
元公爵令嬢。
隣国フルティアにて、痴女認定されたようです。
って────
されてたまるかぁぁぁぁぁぁ──!!
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