第4話 孤児院の男の子(2)
アニカがウルフとポツポツとしゃべれるようになってから、少しずつウルフの身の上がわかってきた。彼は、アニカの2歳上で、王都で両親と住んでいた。でも両親がいっぺんに事故死してしまって父方の叔父に引き取られたけど、放置虐待されていたのが近所の人に見つかって孤児院に引き取られたらしい。
そんな身の上だからウルフは他人に警戒心が強くて子供達とも打ち解けていなかった。他の子供達もそんなウルフを避けていて、悪循環だった。
でもウルフが口をきくようになった頃に新しく孤児院に入ってきたモニカという女の子は、臆せずにウルフに何度も話しかけた。最もモニカが10回以上話しかけてやっとウルフの名前を聞き出せたのだが。
「初めまして!私、モニカ。あなたの名前は?」
「・・・ウルフ」
「ウルフ!かっこいい名前ね!よろしく!」
「うん・・・」
「あなた、目が綺麗!」
「・・・あ、ありがと・・・」
モニカはウルフに異様に懐いてしょっちゅう話しかけていた。だからアニカが孤児院に来ると、モニカがウルフに話しかけている場面を見かけることが多くなった。それを見かける度にアニカはなぜかいつも胸がモヤモヤした。
モニカは、ウルフと同じぐらいの年齢の金髪碧眼の愛らしい少女。孤児院で手伝う畑仕事のために少し日焼けしているけど、身なりを整えてしゃべらなければ、アニカじゃなくてモニカのほうがお嬢様じゃないかという容姿をしていた。そんなかわいい女の子がいつもウルフのそばにいるのだ。アニカが苦しく思わないはずはなかった。
ある時、孤児院の子供が養親に引き取られるところにアニカは出くわした。ウルフが自分の家に引き取られれば、モニカがウルフと日常的に会わずに済むとピンときて、アニカは母ゾニアにねだった。
「ねぇ、ママ、ウルフを引き取ってうちの子にして!」
「アニカ、ウルフはモノじゃないから、アニカが欲しいからうちの子にするっていうわけにはいかないの。うちだってこの孤児院の子全員を引き取れるわけじゃない。だから我が家は、孤児院にいる子達になるべく平等に助けが届くように援助しているの」
「じゃあ、うちの子にならなくてもうちで働けばいいでしょ?」
「ウルフはまだ子供だから働いちゃいけないの。それにアニカだって働く所は自分で選びたいでしょう?人を自分の思う通りにしたいっていうのは我がままなのよ」
この頃、アニカはまだ前世のことは思い出してなかった。でも前世の知識が意識の奥底で混ざっていたから、あんなことを言ったのかもしれない。100年前は当たり前のように平民の子は7、8歳ぐらいから奉公に出され、貴族でも下級貴族の第二子以降は10歳位過ぎから他家で行儀見習いを始めていた。でも今は法律上、15歳までは働けない。
伯爵家の母娘の会話はウルフにも聞こえていたらしい。アニカと院長先生以外にはほとんど話しかけないウルフが、珍しくゾニアの洋服を引っ張って話しかけた。
「つ、つ・・・連れて、いって、く、ください。だ、だめですか?」
「君はまだ小さいから、孤児院に残って学校に通って頑張って勉強してね。それからしたいことを決めればいいよ」
「ア、アニカさまと・・・い、一緒にいたい」
ゾニアは目を瞠った。でもウルフが最後に言ったことは、アニカには聞こえていなかった。
ゾニアとウルフの会話を他の子供達に紛れてモニカが不快そうに聞いていたが、それに気付いた者はいなかった。
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