第2章 厄介な良案
第66話 良い案
その翌週のHRは、行事の決め事が満載だった。学級委員である慧と舞が教壇に立ち、学級会が取り仕切られる。担任である
「今日やるべきことは主に二つ。一つ目は、文化祭についての話と、二つ目は、球技大会の競技決めだ。球技大会のことについては、体育委員に仕切りを任せたいと思う」
慧がそう言うと、康太は慧に向かって任せろと言わんばかりに大きくグッドサインを送った。
慧は静かに頷くと、改めて学級会を仕切り始めた。
「では、まず文化祭について現段階で決まっていることの報告をする」
九月の頭に行われる文化祭は、夏休み明け最初の特大イベント。特に、高校の文化祭と言えば、多くの一年生にとって憧れの青春そのものである。文化祭という言葉が出ただけで、クラス全体の空気がどことなく浮つき始めた。
「俺たちの学校では毎年、一年がダンス発表、二年がアトラクション展示、三年が模擬店を行うことが伝統になっているが、その形式は今年も変わらないことが決まった。つまり俺たちはダンス発表をすることになる」
説明を聞きながら、クラスの女子たちは目をキラキラと輝かせている。そんな様子とは裏腹に奏斗は重たい気持ちになっていた。
―やっぱりダンスなのか……
ダンスとは無縁の人生を送ってきた奏斗には、複雑な振りを覚えられる気はしない。球技大会同様、奏斗の脳はどうやって逃げようかということだけにに全神経を注いでいた。
「使用曲や、振りつけなどの仕切りは、文化祭の実行委員を中心にこれから詰めていくことになるだろう。担当者はよろしく頼む」
詳しいことは追々決まっていくことになる。文化祭についての報告は端的に終わり、次に球技大会の決め事が行われた。
慧の呼びかけで、体育委員である康太と彩が前に出る。二人は、事前に集計した希望の紙を見ながら、黒板に結果を書き出していった。
全てを書き終えると、康太が張り切った様子で話し始める。
「どっちでもいいって言う人も結構いたから、希望は上手くまとまったと思う。それに、どっちでもいい人も楽しめるように、仲良さげな奴で一緒になれるように配慮したぞ!」
そう言って、康太はなぜか奏斗に向かってグッドサインを向けた。
―何で俺……?
たしかに、奏斗は慧と同じくサッカー。ふゆと小夏も同じくバレーボールに組み分けられている。四人に配慮してくれたことを主張したかったのかと思ったが、それは他の人間も同じはず。きっと深い意味はないのだろう、と奏斗は思うことにした。
そんな康太の思惑がようやくわかったのは、放課後になってからだった。
康太たちが示した組み分け結果に異論は出ず、HRは無事終了。掃除を済ませ、いつも通り集合した奏斗たち四人が帰路につこうとしていると、勢いよく背後から肩を抱いてくる奴がいた。
「やっと見つけた! 奏斗!」
「……永谷?」
「しかも、四人揃ってるし最高じゃん!」
走ってきたのか息を切らしているが、康太はいつになくハイテンションでわくわくした様子である。がっしりとした腕にホールドされながら、何の用だろうかと首をかしげていると、慧が康太の肩をつかんだ。
「何の用だ、永谷。俺たちはもう帰るところなんだが」
決して面倒ごとを運んでくるんじゃないぞとばかりに、けん制している様子の慧だったが、残念ながら康太にダメージはなさそうである。むしろ、慧に言われたことで、早く本題に入らねばと、はっとした様子である。
「球技大会のことで、ちょっと提案があるんだ。奏斗とは少し話してたやつ!」
「俺と話してたやつ……?」
ご機嫌にそう言われ、奏斗は一瞬何のことかと戸惑った。しかし、慧、小夏、ふゆの視線が一同に集まった時、ふと嫌な予感があったことを思い出した。
―たぶんあれだな……
―『めちゃ良い案、思いついたから』
話していたというか、『良い案』としか聞いていない。奏斗がため息をついていると、背後から声がした。
「康太―。あんま走って行くなよ、見失うだろ……ってあれ?」
声の主は、晴樹だった。しかも彼の横には、彩と舞の姿もある。舞は小夏と目があうと、はっとなって一歩後ろに下がった。どうやら彼女は、小夏の元に来ようとしていたわけではないらしい。決め事を守ろうとしているのか、一定の距離を置こうとしている。
「おう、やっと晴樹たちも来たな」
皆が状況を出来ていないこの場において、楽しそうなのはこの場を作り上げた本人だけである。全員が理解を求めて、康太に目を向けると、彼はとんでもないことを言い出したのだった。
「来週の土曜、みんなで遊びに行こう! この八人で!」
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