第44話 もう一人の関係者

 体育館に集まって朝のラジオ体操をし、食堂で朝食。だし巻き卵やウインナーといったお馴染みのおかずが並ぶ平皿には、唐揚げやハンバーグといったボリューミーなおかずも並んでいた。


 いつも軽くよそったご飯一杯と味噌汁一杯という朝食を食べている奏斗にとっては、豪華すぎるおかずの量。食べ終わる頃には胃がキリキリと痛んでいた。


 ―酔い止めだけじゃなくて、胃薬も必要だったか……


 負荷をかけすぎた胃を慰めるようにさすっていると、隣に座っていた慧が先生に呼ばれて席を立つ。


「時間がかかるかもしれないから、奏斗は先に戻っていてくれるか」


「了解」


 食事が終わったのに食堂に残っているのもよろしくない。奏斗は食器を乗せたトレーを持って立ち上がった。食器洗いをしているおばちゃん達に会釈して、返却口にトレーを置く。


 食堂を出ると、賑やかしい食堂に比べて、廊下はかなり静かだった。


 部屋に戻った後は、いよいよレクリエーション。ウォークラリーというイベントの皮をかぶった決戦の場。負ければ小夏は舞の元に戻り、適任を失った四人の契約関係は終わってしまう。


 そんな大事な日の朝に、慧が裏切りに出るかもしれないことが示唆され、ふゆは完全に彼を警戒している。皆で力を合わせなければいけない時に、見事にバラバラになっている。


「……はぁ」


 前途多難な状況に、ひときわ大きなため息が出る。すると、思わぬ人物に呼び止められた。


「あの、春永くん。ちょっといいかな」


 びっくりして振り返ると、そこにはとあるクラスメイトが立っていた。


 細身でおどおどした様子の彼は、クラスメイトの小林大輝こばやしだいき。目立たないタイプではあるが、部屋が同じだったこともあって奏斗の記憶にもちゃんと残っている。


「……どうしたの? 小林」


 最近は、契約関係のおかげで人と話をすることになれてきた奏斗だが、それでもまだ、慧たち以外との一対一は緊張する。ぎこちなく聞き返すと、大輝はきょろきょろとあたりを見回した後、さらに神妙な顔になってしまう。


「最近、秋月くんと一緒にいることが多いよね。……その、大丈夫?」


「……大丈夫って、何が?」 


「秋月くん、今もそうだけど、中学の時から結構性格きついって噂あったし。……だから、ちょっと心配で」


 そういえば、慧は『冷酷男』として名を馳せていた。奏斗自身は最近すっかり忘れていたが、やはり他から見る慧の印象は変わっていないらしい。ただ、こうやって直接心配されるのは初めてだった。


「大丈夫だよ。慧は冷たそうに見えるけど、案外良い奴だし」


 ―多分……


 契約関係を疑われないためにも、ここは穏便にやり過ごしておく。とはいえ、早朝のふゆの件があったせいで、奏斗は複雑な気持ちになってしまっていた。


「そっか。なら、いいんだ」


「てか、小林って慧と同じ中学だったの?」


 いつだったか、ふゆが、慧たちと同じ中学のメンツを教えてくれたことがある。奏斗たちのクラスには、慧と小夏以外に同じ中学だったメンバーが四人おり、そのうち三人が晴樹と舞と彩だという話。もう一人については詳しく聞いていなかったが、それが大輝だったらしい。


 ―ってことは、小林が何か情報を持ってる可能性も……?


 真の邪魔者を見つける鍵になるのは恐らく、小夏がぼかした、彼女が舞と決別した際の詳しい状況に関する情報。そして、現在浮上している慧の疑惑を確かめるためにも、彼の中学時代の情報が必要になる。大輝が同じ中学出身なら、彼から何か聞くことが出来るかもしれないと奏斗は思った。


 とはいえ、同じ中学出身なら大輝も関係者の可能性がある。最悪、彼自身が真の邪魔者説もあるのかもしれない。


「……春永くん?」


 どうやら疑念たっぷりの目をしていたらしく、大輝が不安気に首をかしげていた。


「いや、何でもない。じゃあ小林は、小夏や矢坂とも同じ中学なんだなぁって思ってただけ」


 あまりあからさまな探りを入れるのはよくない。そう判断した奏斗は、さりげなく知りたい情報に絡む人物の名前を出しておくことにした。彼が何か情報を持っていれば、きっと話を広げてくれるはず。


 そう思っていると、大輝は明らかに動揺したそぶりを見せた。


「……小林?」


「そうだね。この話、春永くんにはしておいた方がいいのかも」


 大輝は神妙な顔でそう言った後、中学時代のとある出来事について教えてくれた。

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