第25話 薬局組①
今日の目的地は、駅前のショッピングセンター。日用品や服飾、雑貨、CD・DVD、流行りのスイーツまで、ありとあらゆるものが揃っている。最上階には映画館やレストランもあり、中高生の外出先としては定番の場所である。
一階には、馴染みのない高級ブランドやおしゃれなカフェスペースが立ち並ぶ。甘いルームフレグランスの香りに包まれながら、奏斗は自身のショルダーバックの紐を握りしめていた。
―場違い感が半端ない……
ほんのり毛玉を帯びた部屋着が恋しくなる。奏斗が本来いたはずの布団の中に想いを馳せていると、慧が立ち止まって言った。
「とりあえず買い出しだな。一度、みんなの必要なものを整理しておこう」
この外出の主な目的は、合宿に必要なものの買い出し。それぞれが準備に際して新調する必要があるものを買いに行くことと、二日目のレクリエーションで班ごとに用意すべきものを買うことだ。
広い店内を効率的に回るためにも、皆の求めるものを共有するのは有意義であった。
「ちなみに俺は、携帯用の雨具を新調しようと思っている。ついでに予備のタオルも何枚か用意したい」
「私は帽子ですかね。二日目のレクリエーションは長い間、屋外にいるようなので」
「私は、日焼け止めと虫よけだな」
「俺は酔い止め。あと、コンタクトの洗浄液も買い足しておきたいかな」
各々の買いたいものが見事にバラけていることが判明する。慧は少し考えた後、近くにあったフロアガイドに目を向けた。
「奏斗と小夏の買い物内容的に同じ店で行えそうだが……」
「ここ、ドラッグストアとかないんだね」
フロアガイドに載っているなかで医薬品系を取り扱っていそうなのは、せいぜいコスメショップくらいである。想定外の状況に、奏斗と小夏は思わず顔を見合わせた。
「普段、駅前とか全然来ないから知らなかったな」
「俺もだよ。駅にはなんでもある気がしてて、全然調べてこなかった」
とはいえ、ここに売っていないなら、帰りに適当な薬局に寄って調達すればいい話だ。そう二人が割りきろうとすると、ふゆが朗報をくれた。
「たしか、駅の構内に薬局があった気がしますが……。あ、ほら、ちゃんとありそうですよ」
そう言って、ふゆは自身のスマホ画面をみせてくれた。彼女の言う通り、駅のホームページ上にあるフロアガイドに薬局が表示されている。どうやら、駅には観光客向けの土産物や食事処だけではなく、県民向けに小さなスーパーや薬局などが並ぶ日用品売場も存在するらしい。
「じゃあ、こうしよう。奏斗と小夏は駅の薬局へ、俺とふゆはここで各々自分の買い物をする。終わり次第合流して、班の買い物をしよう」
効率重視な慧らしい判断に皆が同意する。四人はさっそく分かれて行動することになった。
*
ショッピングセンターに二人を残し、奏斗は小夏と共に駅に向かって歩みを進めた。
「私たちらしいやり方だとは思うけど、本当にこれでよかったのか? 本来の狙い的には、皆で行動する方がよかった気もするけど」
「確かに。今の状況でクラスメイトに遭遇しても、ふゆも慧も単独行動中だからね」
今回の外出の裏の狙いは、クラスメイトに四人の関係を疑われないよう偽装すること。四人で共に買い物をする中でクラスの誰かに遭遇すれば、休日を共に過ごすほどの関係だと印象付けることが出来る。それを狙って、ふゆはクラスメイト達が話していた日に同じ場所に出かけることを提案した。しかし、今の状況で出くわしても意味がない。
「まあ、後から一緒に買い物するし、その時に遭遇することを願うしかないだろうね」
先ほどのバスターミナルの横を通り過ぎ、東口から駅に入る。流れてくる人込みを潜り抜け、西口近くにエスカレータ―を見つける。見上げると、上の階に並ぶ店舗の名前が並んでいた。
「四階まであったのか……?」
「いや、建物として正確には八階だ。五階から上はホテルの客室になってる」
「まじだ。さすがターミナル駅。スケールがでかい」
「四階までは基本的に地元民向けなんだろうな。ほら、診療所もある」
二階にはスーパーや薬局、三階はお食事処やホテルのロビー、四階にはクリニックや補聴器屋があると表示されている。どうやらこのエリアもまた、駅の一角に存在するショッピングモールということらしい。
エスカレーターで二階に上がると、看板どおりにドラッグストアが目の前に見えた。風邪薬や抗アレルギー薬、湿布薬やアクネケア用品の他、お菓子など食品類も置いてある。決して広い店舗スペースではないが、品ぞろいは豊富なように思える。
二人は早速、各々で必要なものを買うことにした。奏斗はいつも買っている商品を見つけると、迷わず手に取っていく。すみやかにレジを済ませ、近くのベンチに腰掛けると、小夏ももうすぐ会計を済ませるといったところだった。
ものの十分もしないうちに二人の買い物は済んでしまった。
「どうする? 戻るにしてもさすがに早すぎかな?」
「んー、とりあえずチャット送ってみるか」
【薬局組は買い物終了した。他はどう?】
チャットというのは無論、例の特殊なグループチャット。誰が送ったのかがわからないようになっている。慧の試作中のシステムである。
小夏の送ったチャットにはすぐに既読2の文字がついた。すぐに、二つの文面が届く。
【こちらはまだしばらくかかる。終わったら召集をかける。モールに戻ってきてもいいが、どこかで時間をつぶしてもらっても構わない】
【同意】
「……なんとなく、一個目が慧っぽいな。召集かける奴っぽいし」
「多分そうだろうね」
誰からのチャットか分からないようにすることで、気軽に質問ができるようになり、余計なストレスをなくすのがこのシステムの目的。普通の連絡手段としては想定されていないため、どうしても会話内容から誰からのチャットかが推測しやすくなってしまう。
「どうする? 別行動してもいいけど、私は別に行きたいとこないんだよね」
「俺も。むしろ、この人込みを行き来してたら人酔いしそうだし、どっかで休んでたい」
我ながら引きこもりがバレバレの発言だとは思ったものの、これが奏斗の本音だった。建前を言ってもしょうがない。次の行動を考えている今も、自然と人のいない場所を目で追っている奏斗を見て、小夏は一つ提案をしてきた。
「……奏斗、ちょっと小腹すいてないか?」
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