第21話 班決め②
「どうして、日向さんと私が別々の組に別れることが決定しているんですか?」
そう言って立ち上がったのは、ふゆだった。凛として美しい銀髪をなびかせる彼女の姿は、小夏の瞳に希望を映す。
彼女の言っていることは真っ当な事実だった。その発言にクラスが少しざわめき始める。いつの間にか、小夏とふゆの二人組が解体されることが決定事項のようになっていたが、大前提としてそうなる理由が定義されていないのだ。
先ほどまでとは様子の変わった教室。すると、舞はぱちんっと両手を合わせ、急に
「ごめん! そうだよね。意味わかんないよね。私、説明端折ってたや」
ごめんごめんと言いながら、人差し指で頬をかく。そうして彼女は、説明とやらをしてくれた。
希望をとった結果、舞と彩、小夏とふゆの二組が慧と奏斗と班を組むことを望んでいたらしい。そのほかの希望はうまくまとめられたので、三人組を作るなら、舞と小夏のどちらかの組が解体して別のところに分かれるのが一番穏便な方法だと考えたのだという。
「……なんだけど、ほら、私と秋月君、副委員長と委員長でしょう? 同じ班でいた方が何かと便利じゃないかって先生にも言われてるんだよね」
申し訳なさそうに打ち明ける舞。話を聞いたクラスメイト達は、一瞬で舞の側についたようで、「それなら、仕方なくない?」「舞ちゃんたち優先だよ」と口々に話し始めた。
しかし、クラス全体が小夏たちを別れさせる方向に向かっているなか、奏斗は正直呆れていた。
「……嘘だな」
というのも、今朝、奏斗は才川先生に茶化されていたのだ。「今日の班決め、最近の仲良し四人組で一緒になれるといいな?」と。どこか楽しそうな先生に、奏斗は大きくため息をついていた。しかし、そんなやり取りも舞の嘘を見抜くことにつながったので、一応感謝しておくことにする。
―それにしても矢坂。平気で嘘をついてくるなんて……。目的達成のためなら手段を選ばないってやつなのか
またしても、舞の形勢逆転かと焦ったが、対するふゆは冷静だった。
「理由はそれだけですか? それなら、矢坂さんたちが別れて私たちの組に入っても、同じことだと思うのですが」
「……それは」
「委員長と副委員長が同じ班の方が都合がいい。その理由だけで、私たちが別れることが決定事項になっているのは、あまりにも不公平だと思います」
淡々と言ってのけるふゆ。彼女の発言に、クラスの雰囲気はまたも一変する。再びざわめきだすクラスメイトたち。総意が揺らいだ瞬間に、ずっと沈黙していた慧が、とある一手を放った。
「俺も真白の意見に賛成だ。それに、要は俺と副委員長とでしっかりとした連携が取れていれば問題はないという話だろう。先生も無理に同じ班になれとは言わないんじゃないか?」
慧は学級会を主体的に仕切る権利を放棄した。しかし、それでも委員長という立場に変わりはなく、彼の発言は、大きな影響力を持つ。仕切らずとも、裏で糸を引くことはできるのだ。
実はこれも昨日の計画で話されたことだったりする。舞の行動によって、小夏が上手く動けない可能性は考慮済み。小夏をかばうようにふゆが立ち上がり、それに賛同するように慧が動き、四人で班が組めるよう上手く誘導する。
そして、慧にはとある秘策があった。
「それに、本当のところ副委員長は俺と組みたいわけじゃないだろう? 委員長、副委員長の立場を考慮して希望してくれたんだよな」
「……え、それは」
「本当は、いつも仲良くしている田川達と組みたいんじゃないか? せっかくの合宿なんだ。一緒になりたい奴と組んだ方が楽しいぞ」
慧の言葉に賛同するように、田川達がコクコクと頷く。
田川春樹。慧によると、彼は中学の時から舞のことを好いている。そんな彼が、イベントごとで同じ班になることを希望しないはずがなかった。恐らく、舞が先ほどクラスメイトに話したような理由をつけて、説得していたのだろう。舞の頼みなら、彼は断ることができない。
しかし、そこを崩せば、後は仲良しグループが自然と流れを作ってくれる。それが慧の作戦だった。
慧の予想通り、田川や水上をはじめとした派手グループは、どうにかしてみんなで同じ班になろうと画策し始めていた。
―これなら矢坂はもう何も言えないだろうな
苦笑いを浮かべながら周りに話をあわせる舞を見て、奏斗は一旦安堵する。この流れなら、舞が無理に小夏を一緒の班にすることはないだろう。
しかし、流れは一瞬で覆されることとなった。
「みんな、ありがとう。……でもね。私が日向さんたちを私達の班に入れようとしたのには、もう一つ理由があるの」
―……?
急に改まったように話し始めた舞に、皆が注目する。急に何を言い出すのかと、再び緊張感が走ったその時、彼女が口にしたのは想定外の言葉だった。
「実は私、聞いちゃったんだよね。
日向さんと真白さん。二人が契約上の友達だってこと」
「「「「……!?」」」」
クラス全員が息をのむ。目を見開いた小夏の目に飛び込んできたのは、こちらに不自然な笑みをこぼす舞の姿だった。
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