第38話 再会は叶うのか?
神託節の受付が後10分もしないうちに終わろうかという時、聖グィネヴィア修道院の正門前に黒塗りの馬車が停まった。大口寄付をするような人々が使う馬車には大抵家紋がついているが、その馬車には見当たらない。
馬車の扉がバタッと乱暴に開けられると、若い男性が転がり落ちる勢いで降りてきて正門から受付めがけて必死に走ってきた。
「あの人、何?!」
「こっちに来るわよ!」
「えっ?! 何?! 何かすごい必死よ!」
その男性は髪を振り乱していて服も大分乱れているが、施しを受けに来る人達よりも質のいい服を着ている。受付の修道女見習い達があっけに取られている間にその男性は彼女達の前に到着した。彼は受付の机に両手をついて肩で大きな息をしながら、俯いたまま声を絞り出した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ま、ま……だ、受付、して、ますか?」
「はい、大丈夫……え? ゴ……ノスティツ子爵閣下?!」
「あ、あ、アン……ト、ニア……さん?!」
ゴットフリートは、アントニアを目の前にして急に自分の髪を振り乱した様相に恥ずかしくなり、顔を赤くして背けた。
アントニアとゴットフリートが、久しぶりの再会にあたふたしている間、例の詮索好きな新入り修道女見習いがゴットフリートに声をかけた。
「ゴットフリート・フォン・ノスティツ様ですね? まだ十分見学の時間はございますから、まずは落ち着かれて下さい」
「あ、ありがとうございます……」
ゴットフリートは、アントニアに背を向けてボサボサになっていた髪とよれたシャツを整えた。久しぶりに想い人に会えたというのに、こんなに恰好悪い所を見せてしまってゴットフリートは落ち込んだ。
しばらくしてゴットフリートが息を切らさないようになったのを見て例の新入り修道女見習いが声をかけた。
「それではこのバッジをお付けください。――シスターアントニア、一緒に案内しましょう」
アントニアは、どう返事しようかと一瞬迷った。本心ではゴットフリートを案内したいとは思うものの、彼と話したら自分の気持ちがどうなってしまうのか怖かった。もしアントニアがゴットフリートにまた恋をしたとしても、離婚経験のあるアントニアの恋は実らないはずだ。それなら彼と接触せずに彼のことを考えないようにするしかない。だが、他の見習いの前で案内を一緒にしようと言われた手前、アントニアに断る術はなかった。
3人で礼拝堂へ向かう間、アントニアもゴットフリートも修道女見習いが話す聖グィネヴィア修道院の歴史を黙って聞いていた。だが後数メートルで礼拝堂の入口に着くという所で彼女は足を止めた。
「……私から話せることはこれぐらいです。後はシスターアントニアからお聞き下さい。私は別の方の案内がありますので、ここで失礼しますね」
「え? で、でも……」
「いいから、いいから。ね?」
戸惑うアントニアに修道女見習いはウィンクをして受付の方へ戻って行った。
本来、聖グィネヴィア修道院は外部解放日も修道女や見習い達が男性と一対一にならないように男性1人の訪問者には2人案内を付けるように定めている。だが、例の修道女見習いは気を利かせてアントニアとゴットフリートを2人きりにしたようだった。
「え、ええと……ノスティツ子爵閣下。それでは礼拝堂にご案内します」
アントニアが礼拝堂の中へ入ろうと歩みを進めると、ゴットフリートは慌てて声をかけた。
「シ、シスターアントニア! ま、ま……待って下さい!」
「どうかされましたか?」
「あ、あの……弟がお節介を焼いて失礼しました」
「いえ、元々離婚経験のある私には過ぎた話ですから」
「い、いや、そ、そんなんじゃ……その……」
その時、目の前の礼拝堂の扉が突然開いてアントニアは驚いた。
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