第20話 悪辣男爵の断罪
ゾフィーの誘拐未遂犯とラルフの襲撃犯に犯行を依頼してきた者は、ラムベルク男爵家の人間ではなかったが、男爵家に繋がっていた。ラムベルク男爵アドルフがその依頼者に接触した形跡が見つかり、アドルフの上の息子2人も誘拐・襲撃計画に関わっていた。彼らは事故を装ってゾフィーとラルフ、公爵夫妻を殺し、アドルフの次男クリストフを次期公爵にさせるつもりだった。
コーブルク公爵家がアドルフと息子達を捕縛しようとラムベルク男爵家を急襲したところ、3人は勘がよかったのか、運がよかったのか、既に逃亡した後だった。アドルフの妻テレザや執事ステファン、その他の使用人達もラムベルク男爵家からいなくなっており、屋敷はもぬけの殻だった。しかしそこは優秀なコーブルク公爵家の影。アドルフと息子達の3人は逃亡先で捕らえられた。
「誤解だ、アルベルト。そんな男娼の言うことを信じるのか?あいつはテレザと出来ていた。阿婆擦れババアと一緒になるために俺を陥れようとしているんだ!」
「お前に呼び捨てされる謂れはない。お前達の息がかかった者が実行犯にゾフィー嬢とラルフの殺害を依頼したことはわかっているんだ!それよりこれに署名しろ」
「なんだこれは!やっぱり阿婆擦れババアは、あの下賤な男娼と一緒になるっていうのか?!」
コーブルク公爵アルベルトがアドルフに署名しろと言ったのは、アドルフの妻テレザの署名が既に入っている離婚申請書だった。
シュタインベルク王国では結婚は教会の元で行われるもので、離婚は原則として認められていない。だが配偶者が犯罪者となったり、行方不明になったりした時など、特別な場合のみ認められている。
「ヨナスは関係ない。離婚は彼女の希望だ。それから言っておくが、彼女は『阿婆擦れババア』ではないし、ヨナスも『下賤な男娼』ではない」
「じゃあ誰が相手なんだ!まさか、テレザに色目を使ってたステファンが再婚相手か?!」
「彼女がお前と離婚後、誰と再婚しようと関係ないだろう?」
「やっぱり阿婆擦れじゃないか!俺は離婚しない!」
「お前達の犯した罪では、普通は処刑される。しかも横領の余罪もある。だが、お前がここに署名すれば、お前達3人を生かしておいてやる」
命が惜しいアドルフは、生き延びたい息子2人にも圧力をかけられたこともあって、教会に提出する離婚申請書に署名した。その時、彼らは幸せなことに知らなかったのだが、働けなくなるほど身体を壊すまでコーブルク公爵領の鉱山で強制労働をさせられることになった。ただ、この時の予定ではそうだったものの、数年後には解放されることになる。
陰謀に関わっていなかったラムベルク男爵家の使用人達のうち、ごく少数が男爵家に残ったが、他は公爵家に再雇用されたり、紹介状をもらって別の貴族家に就職したりすることになった。
ラムベルク男爵家は、アドルフの何番目だったかもうわからないが、過去の愛人の子ベルンハルトが継いだ。だが彼はまだ15歳で寄宿学校の生徒だったから、卒業までの3年間は本家のコーブルク公爵家が領地経営を支えた。
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