異世界帰りの元勇者、現代でもファンダジーにつけ狙われる(仮)

akamiyamakoto

プロローグ

魔王討伐! からの帰宅

「妾を打ち倒すとは、見事、だ……」


 そう言い残し崩れ落ちる魔王。その光景を見た【勇者軍】は歓声をあげ、勝利を喜びあった。

 俺は俺で、拳を握り直し、目を瞑った。


 ──めっちゃ、美人だったな。


 ……【魔人】の長に対して場違いな感想を抱いてしまった。

 いやでも、結構心苦しかった。俺の基本戦闘スタイルは「魔術で強化して物理で殴る」というもので、剣を主体にするでも、魔術を主体にするでもない拳術ステゴロだ。

 ファンダジーの欠片もない戦い方だが、これが俺の最適解だった。


 その影響で、かっこよく詠唱したり、きまり文句を喋ったりする魔王に対して容赦なく殴りかかるという、事情を知らない人からすればヤバい状況を作り出していた。

 しかもトドメの一撃、腹パンだぜ? かっこよく見事だ……とか言ってたけど、絶対痛いし不服だったはずだ。


 ともかく、戦いは終わった。殿にして最高戦力、部隊最高権力者の俺が音頭を取らないと、この戦いに終止符を打つ事は出来ないだろう。

 拳を突き上げ、声たかだかに宣言する。


「人魔戦争は、俺達の勝利だ────!」


 オォぉぉぉ! っと再び歓声が湧き上がる。これで本当に戦いは終わった。いやー、長く厳しい戦いでしたね……。

 【魔人】達も戦意喪失している。【魔王軍四天王】なんて「魔王様が殺られた……殺られちゃった……!」と絶望している。


 しかも可哀想な事に、彼女は【魔王軍四天王】最弱、かつ最後の生き残りだ。

 つまり現時点で【魔王軍あちら側】の最高権力者は彼女であるが……戦う意思はないようだ。……無いよな?

 流石に連戦は面倒くさいぞー、と思いながら拳を下ろすと、仲間パーティメンバーが集まってきた。


「やったわね! これで世界は救われたわ!」

「流石、ボクが見込んだ男だ。やり遂げたな」

「トーヤ、貴方の活躍は今後、未来永劫語り継がれることになるでしょう」

「我が友トーヤよ、やはりお前は最強で最高だ。お前のような奴と共に戦い抜けた事、誇りに思う」

「おうよ、これで一件落着だな」


 ちなみに上から順に【暗殺者シノビ】、【魔術師賢者】、【聖女王女】、【剣士剣聖】である。……後は【魔術戦士勇者】たる俺か。

 他の皆さんは、最終決戦魔王戦で邪魔が入らないよう他の【魔人】を足止めしてくれていた【勇者軍】の方々で、共に旅をしてきたのはこの四人だけだ。


「お前ら、これからどうすんの?」


 これで世も平和になる。これからどうするのかと俺は問い掛けた。


「私は任務完了の旨を伝えた後は……そうね、隠居でもしましょうか。この旅で一生分の運を使い果たした気分よ」


 と、【暗殺者シノビ】が答える。正直な話、彼女程の有能な裏の人間が大人しく引退できるとは思えないが、本人はもう仕事をするほどの熱意がないようだ。


「ボクは今まで通り自分の工房で魔術の研究をするさ。次に表に出てくるのは……そうだね、百年は先がいい。ボクもなんだかんだ疲れたしね」


 と、【魔術師賢者】が答える。彼女は俺の魔術の師匠でもあり、世界最高峰の魔術師だ。そう簡単に隠居は出来ない気もする。


「私は今回の結末を国王に報告し、世間に魔王討伐を成し遂げたと公表します。そして事後処理も……お二人とも、休めるとは思わないように」


 と、【聖女王女】が答える。確かにこの中だと一番やることが多そうだ。そしてしれっと隠居宣言をした2人をこき使うと宣言している。2人もそりゃないよ! っと言いたそうな顔をしている。


「俺は……今までのように、剣を極める放浪の旅に出よう。何かあれば呼んでくれ、近場ならば必ず駆け付ける」


 と、最後に【剣士剣聖】が答えた。そうか、こいつ一番気楽なのか。てか、これ以上どう剣を極めるつもりだ? そう思ったのはどうやら俺だけではないらしく、メンバー全員から何言ってんだ? という顔を向けられていた。


 ここに集まった俺を含む5人は、それぞれの分野で最高峰に位置する。

 俺は一応【人類最強】だし、【聖女王女】は【歴代最高の聖女】と言われている。


 【暗殺者シノビ】は【超一流の暗殺者】だし、【魔術師賢者】は【魔術師最強】と謳われる実力者だ。


 そして、全力の俺と互角の戦いを為せるのが【剣士剣聖】だ。

 こいつは本当におかしい。剣筋は見えないし動いたと思ったら斬られてるなんてざらにある。

 それどころか、魔術を使ってるわけでもないのに剣が伸びる──錯覚を利用しているらしい──し、はてや大地をり、空すら斬り裂く。


 それだけにとどまらず空間を捉え時間を斬るなんて事もやってた気がする……本当におかしい。

 なんで【人類最強】より【人類最強】してんの?


 ……ともかく、もうこれ以上強くなる余地がない──というか強くなられると逆に困る境地に【剣士剣聖】は既に至っているため、皆からまだ強くなる気か? っと、言いたそうな視線が送られているのだ。

 そして【剣士剣聖】自身はその視線に気づいていない。この鈍感系イケメンめ。


「トーヤ。俺達は答えた、お前はどうするんだ?」

「俺?」


 唐突に【剣士剣聖】はそう問い掛けてくる。なるほど、皆に語らせてお前は語らないのか? っと言いたいのだろう。

 予想外のカウンターを食らった気分だ。少々言葉が詰まったものの、今考えている俺の今後の予定を話す。


「そりゃお前、俺は帰るさ。元の世界にな」


 そう言うと、【剣士剣聖】は静かに目を閉じた。他の面々も、三者三様な表情を見せる。


「寂しくなるな……俺とまともに斬り結べるのは、お前だけだというのに」

「おいおい、世界は広いんだぜ? まだ見ぬ強敵なんざゴロゴロいやがると思うけどなァ」

「……いや、やはりお前以上の実力者はこの先、少なくとも俺が死ぬまでには生まれないだろうな」


 良い話として纏まりそうだが【剣士剣聖】の言っている事は、まともに戦える奴がいなくなるのは退屈になるから嫌だ、である。

 迷惑極まりない。俺は二度とお前の相手なんてしねぇっての。


「ここに永住する選択肢はないのですか? 世界を救った貴方なら、貴族と同等以上の生活を約束できるでしょう」

「そうね、トーヤは世界を救った。英雄を無碍にするほど国王や貴族も人間捨ててないでしょ」

「なんなら、ボクの工房に住み着いてくれても構わないよ? 君の勇者の力には、まだまだ未知な部分が多いからねぇ」


 どうやら【剣士剣聖】以外はこちらに残ってほしいらしい。

 確かに俺の力は未だ未知数だ。5年間過ごして、6割ぐらいまで解明したが、のこり4割は未だよくわからない。


 とはいえ、それでも俺は戦力としては非常に強力な手札となる。

 【聖女王女】が残ってほしいのはおおかた国の戦力確保だろう。俺も【聖女王女】に恩義があるし、少しぐらいなら手を貸してもいいが……。


 次に【暗殺者シノビ】の言い分として、こっちに残っても困る事はないだろう? っと彼女は言いたいわけだ。

 なるほど確かにその通りだ。長く続いた戦争を終わらせた英雄である俺は、地位も名誉も、金にすら困ることはなくなるだろう。


 ……それはそうとして、その言葉は不敬すぎでは? 【聖女王女】は何も言わないが、一応国の偉い人ですよ? そんな人がいるところでそれは、アウトラインいってません?

 まぁ、超一流の【暗殺者シノビ】である彼女がそう簡単に殺されるとは思えないが。


 最後に【魔術師賢者】だ。彼女の言い分は至極単純で、俺の力を解明したいから残れと言っている。

 おそらく、わがままも多少は融通を利かせてくれるだろう。


 3人の意見を聞いて考えれば確かに、こっちに残った方が将来安泰かもしれない。だが────。


「いやでも、ここネットないし……ゲーム出来ないしなぁ」


 そう、この世界は魔術が発展していたり、魔王との戦いがあったりで文明はそこまで進歩していない。

 つまり、ここにいる限り俺はゲームも出来ない動画も見れないと、やりたいことが何も出来ないのである!


 これは由々しき事態だ。俺のネットへの欲求はこの5年間で溜まりに溜まっている。帰れるチャンスをわざわざ捨てるのは考えられない。

 一応ちゃんとした事も言えば、やはり文明的に現代日本の学生である俺には中々耐えられないものが多いのだ。


 例えばトイレとか、風呂とか、ベッドとか……日本の水準を求めている俺がいけないのは承知しているが、やはり5年もいると恋しくなるものだ。


「それに、元々そういうだったろ? ほら、見ろ」


 俺は自分の体に目線を落とす。他の四人も俺の体を注視する。

 するとどうだろうか、俺の体はだんだんと半透明になっていっているのだ。


 これは、契約内容の完遂による、契約解除の合図だ……と思う。

 流石に俺以外の召喚された者を見た事が無いので何とも言えないが、俺は「魔王を倒す、倒したら元の世界へ送る」という契約をとしている。ちなみに拒否権はなかった。

 今の俺なら打ち消す事の出来る程度には、神様が仕掛けたにしては弱い契約の呪縛だが……今更抵抗する理由もない。


 そして、魔王を倒したタイミングでの半透明化……魔王の呪いでもないなら──まぁ、呪いは効かないのだが──契約内容の完遂による強制送還以外考えられない。

 だから、お別れを言わなければならない。


「まぁ、アレだ。お前らとの旅は、死にかける事とかあって、二度とやりたくねぇと思ってる。だけど、それ以上に旅が楽しかった」


 霞んでいく視界の中、涙を流す者、顔を伏せる者、唇を噛みしめる者、目を開きこちらを真っ直ぐ見据える者……四人を確認し、俺は最後に笑った。


「じゃ、元気でな! 俺は5年ぶりにゲームしてくるわ!」


 瞬間、視界はホワイトアウトした。見えるものは一面真っ白な、上も下もわからない、もしかしたら果てなく続いているのではと思わせる白の世界。

 これは──201色目の白!? っと心の中でボケをかましつつ、ここに呼びつけたであろう神様を待つ。


『────お久しぶりです。夕凪凍夜』

「……前と来たときと変わらないなここ、殺風景だ。椅子とテーブルでも置いたら? インテリアがあればマシになる」


 俺がそう言うと、目の前にテーブルと椅子が現れる。向かい側にはしれっと俺を拉致した神様が座っていた。


『おすわりください。貴方とは、ゆっくり話がしたかった……後、拉致ではありません。勧誘です』

「拒否権無しの勧誘とか、余計たちが悪いっての……後、心を読むな」


 ドカッと椅子に座り込む。疲労で体が沈み込んでいくのを感じる。

 あいつらの前では、いつもどおりのバカを演じてたから、疲れが取れてない。


『疲れを取りましょうか?』

「何を要求してくるかわかんねぇから、いい」


 それにこの疲労は、名誉の疲労だ。

 俺が成し遂げたという、確固たる証拠なんだから、それを取りあげられるなんてたまったもんじゃない。


「んで、話って? さっさと帰りたいんだが」

『えぇ、手短に終わらせます』


 そう言うと、神様は目の前に半透明のパネルを出してきた。

 そこに書かれている内容は────。


【世界を救っちゃおう! 死ぬかもしれないスリル満点の魔神殺し!】


「誰がするかクソったれ!!」


 文字を認識した瞬間、体は動いていた。音速で椅子から立ち上がり、放たれた拳は更に加速して音を置き去りにし、パネルを破壊した。

 意外にも抵抗なく破壊され、殴りつけた拳には傷どころか痛みや痺れもない。


『はぁ……やはり駄目ですか。貴方なら、と思ったのですが』

「当たり前だろ、さっき救った世界をもう一度救えって……せめて休ませろ!」


 世界を救った英雄に労いも褒美もなく、もう一度世界を救えと言うのは、あまりにもあんまりだろう。

 ブラック企業も真っ青な労働内容だぞ。労働基準法はどうなってんだ! ……いや異世界にそんな法律無いか。


 そんな事を考えながらも絶対に引き受けないぞと神様に睨みを利かせている俺に、神様は溜息をついて人差し指を向けてきた。

 俺は人を指で指し示すのはいけないことなんだぞ……と、くだらない事を考えつつも、その真意を探ろうとしていた。


 しかし次の瞬間には、俺の足元に魔法陣が現れ、思考は中断された。

 魔法陣の眩い光が俺を包み込み、視界が再びホワイトアウトする。突然の事に動揺し言葉が出ない俺の耳に、神様の声が聞こえてくる。


『魔神殺しは次世代の勇者に任せます。あなたはお帰りになってください。なるべく時間は都合します……またいつか、会いましょう』


 ──なに不吉な事言ってんだ! 二度と会わねぇよ!

 俺の心からの叫びは、おそらく神様にはとどいていなかった。


 そうして、俺の意識は遠のいていく。

 いかに神様と言えど、ちゃんと元の世界かつ元の時間に戻せなかったらとっちめてやる……と、心に決めながら、俺の意識は完全に消えるのだった────。


 ◇◇◇

 夕凪凍夜

 年齢:17(異世界転移前)


 頭のネジがいい感じに外れている元一般帰宅部高校生。

 この度めでたく勇者として召喚されたが、やる気はそんなになかった。


 しかしある理由──ゲームしたい動画見たい以外の──から積極的に活動するようになり、最終的に【勇者軍】を組織し指揮する程のカリスマと能力を得た。


 普段はおちゃらけているのだが、その実かなり思慮深い。時折見せるシリアスな思考がそれである。





 自分の小説のジャンルというか、タイプがシリアスだったり真面目だったりな小説が多かったので、ギャグ寄りの無双小説を書いてみました。

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