第14話 夢の話





五樹です。おはようございます。今朝もコーヒーを飲みながら書いています。


僕はさっき、2回ほど夢を見ていました。主人公は時子です。でも、そこには僕も居ました。彼女の意識の内側から、彼女を見つめていた。


1つ目の夢は、時子が何かの集まりに呼ばれた後で、帰り道にレコードショップに寄りたがっていた夢。


“ああ〜、ディスクユニオン行きたい!”


彼女は音楽マニアなので、中古のレコード店で、お気に入りのバンドのレコードを延々と探し続けたりもするのです。


2つ目の夢は、この子が過去に入院していた病院を訪れる夢。そこにスタッフとして現れた青年と話をして、くたびれた帰り道、時子は知人に慰められていました。


スタッフの青年は明るかったけど、しつこく色んな事を聞いてくるので、時子は帰り道の電車で「疲れた」と言い、時子の頭を膝に乗せた知人の女性(状況がおかしいのは、夢なのでご容赦下さい)はこう言った。


「私は面倒だなと思って避けてた。ああいうのって、こちらが付き合えばいつまでも続けるから、養分吸われるだけだし、結局こっちが死ぬまで続いて、別れを選ぶまでは同じように歩くしかない。私も過去にそういう失敗したけど…」


この2つ目の夢には、時子が人間関係に疲れてしまう理由が、明確に表れているように思います。


時子の周りには、時たまに、とても気を遣わなければならなかったり、こちらの意見を受け入れてくれない人などが現れるのですが、それは、時子がそういう人も断らないからなのです。


大人になれば、それまでの人間関係から得た経験で、二言三言言葉を交わせば、面倒な人かそうでないか位は、見分けが付きます。そうすれば、やんわりと避けたりする事はいくらでも出来る。


でも、時子はどんなに面倒そうな人と出会っても、避ける事さえ可哀想なように思って、そのまま付き合いを続けてしまう。


母親に付き従い続けていた日々のように、“断れば酷い目に遭う”といった強迫観念か。もしくは、“あの母親と比べれば全然問題なんてない”という、ある意味での余裕なのか。事実、この子は、自分の母親以上に面倒な人にはまだ会っていません。僕も、もうそんな人は出てこないだろうと思います。



夢の話から少し脱線してしまいましたが、多分後で時子が目を覚ました時、彼女は夢を思い出し、もしこの話を読めば、「また夢を覗き見された」と思うでしょう。


僕は主人格の時子の、全ての記憶を保持し、他の人格も同じように動向を探る事が出来る。それは、夢であっても同じ。


でも僕は、覗き見するだけに留まりません。もちろん、僕一人で夢を見る事もありますし、時子が脇役になる事もあります。



ある晩、僕は、忌まわしい夢を見ていました。


夢の中で、時子は逃げている。必死に逃げよう逃げようとして、風呂場、リビング、寝室と、駆け回っていました。そこには、あの女、時子の母親が居た。


ついに時子が追い詰められるとなった時。それまで、夢の中で客観的な視点としてしか働いていなかった僕の意識が、突然形を取ったのです。


僕は、自分が時子と同じ姿をしている事に気づき、目の前に現れた時子の母親に、怒りを燃やしました。


時子を虐待した母は、彼女が家出をしてからも、時子が逃れて行った父親の家に電話を掛けて、時子を叱り続けた。


それで時子は、“お母さんから逃げる事は出来ないんだ”と、自殺を選んだのです。あと一時間遅かったら死んでいたと、医者が言っていた。あの日、偶然に父親が早く帰ってこなかったら。


そこまで追い詰めたのに、それだけでなく、今でも夢の中で追いかけて来る。憎くて憎くて堪りませんでした。


だから、何かを盛んに言い立ててこちらに襲いかかってくる母親を、僕は近くにあった何かで、殴り飛ばしました。


「お前のせいで!お前のせいで!死んじまえ!てめえがこの子をこんなにしたんだ!俺は絶対に許さねえ!クソ野郎!死んじまえ!」


僕は、鬱積していた怒りを爆発させ、ずっと母親を殴り続けました。


僕が手に掴んだ物がなんだったのかなんて、僕は考えもしませんでした。でも、後から時子が夢を振り返り、こう言っていた。


“急に夢の中にもう一人私が現れたと思ったら、大きな辞書みたいな物で、お母さんを殴り続けて、男言葉で罵倒してた。なんだったのか分からなくて、私、怖くて堪らなかった”


時子はそんな風に怖がっていましたが、彼女がどんなに怖くたって、もし母親が目の前に現れたら、現実でも僕は同じ事をするでしょう。


時子は復讐なんか選ばない。時子は、親戚からこっそりと「あなたのお母さんは、あれから色々な病気を抱え込む事になってね」と伝えられてから、ずっと母親の心配をしています。


人に害を与えてばかりだから、誰にも構われなくなった母親の事を、時子は、“お母さんは孤独に死ななくちゃいけないのかしら”と、悲しむのです。


この文章を書いていて、僕はなんだか、訳が分からなくなってきました。虐待は悪のはずです。子供に罪などないはずです。それなのに、時子ばかりが辛い思いを自ら背負い込もうとする。これは一体なんでしょう。


彼女が夢から醒める日は、来るのでしょうか。



今日は少し重くなってしまいましたね。でも、ここまでお読み頂き、有難うございました。また読みに来て下さると有難いです。それでは。





つづく

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