ただの戦闘員が悪の総統に成り上がるというお話

ニャルさま

Another.01 戦闘員の覚醒

ヒーロー登場

 現在いま、まさに地球は侵略されていた。

 その侵略者とは何者であろう。宇宙の果てから現れた異星人だろうか。あるいは、古代の眠りから目覚めた先住者か。はたまた、狂気に蝕まれた科学者なのか。

 いな! そのどれでもない。地球への侵略者は地球から現れる。現在とは異なる歴史を辿った平行世界より出現したもう一つの地球アナザーアースから侵略者が乱入してきたのだ。


 もう一つの地球アナザーアースを支配する世界帝国は突如として本来の地球オリジナルアースへの侵攻を開始した。その行動は迅速で、米軍の基地をたちまち無力したのを皮切りに、主要各国の軍隊を次々に無力化していった。

 本来の地球オリジナルアースの人々が侵略の事実に気づかないままに、侵攻を完結してしまったのである。


 世界帝国の主力は強化兵ストロングマンと呼ばれる戦闘員であった。彼らは筋肉を強化され、全身のいくらかは機械部品に改造されている。銃弾などはものともしない耐久性を誇り、大岩を持ちあげるほどの腕力を持つ。薬物を常習することを余儀なくされ、その頭脳は朧げなものとなり、ただ命令を遂行するマシーンと化していた。

 彼らに支給される装備は安価な銅製の鎧兜であり、太陽に輝く姿は薄ぼけた黄金色をした藁のように見える。そのため、口の悪い人々は強化兵ストロングマンを揶揄して、藁兵ストローマンと呼んだ。


 我らが主人公、彗佐せっさ拓磨たくまもまた、藁兵ストローマンの一人であった。いまだ、薬物の洗脳にあり、ただ漠然とした意識のまま、地球侵略の尖兵として人々を虐げる存在である。


 それは日本国北海道での作戦だった。拓磨もまたその戦線に駆り立てられている。

 それを率いるのは異海将校アウターマン、カジキ師団長だ。きりのように長い鼻に、トサカのように逆立ったヒレ。青光りする巨体が力強さを感じさせる。


「こちらカジキ、ハハ、そうですか。計画は順調なようですな。

 我々も北海道をすぐに支配下に置いてみせますぞ。グフフ、ご期待あれ」


 もはや本来の地球オリジナルアースの支配下は世界帝国に移りつつあった。

 北海道にある国防軍の基地もまた、藁兵ストローマンたちの侵攻によって、瞬く間に落ちつつある。平和な時代は終わった。これからは世界帝国による無秩序で無遠慮な時代が始まるのだ。

 藁兵に蹂躙される国防兵たちはそう思ったであろう。突如として出現した侵略者に、誰も敵することさえできない。あるものは反応できないままに死に絶え、あるものは銃弾を撃ち込むも決定打にならずに困惑のまま意識を絶たれる。目ざとく、逃げ出したものも殲滅されるのを待つばかりだ。結果として、国防兵たちの行動はすべて無為なものであった。

 このまま、日本は、いや世界はもう一つの地球アナザーアースの世界帝国に侵略されるのであろうか。救いとなるヒーローは存在しないのだろうか。


「けっ、冗談じゃねぇ」


 そううそぶくものがいた。空間が捻じれ、一人の男が出現した。藁兵ストローマンたちの銃口が一斉にその男に向く。

 灰色のターバンを頭に巻き、灰色のマントを纏った異国の旅人。その姿はアラビアンナイトに登場する盗賊を思わせる。男の顔には絶望と怒りの表情が刻まれていた。


「別の次元に来たってのによぉ、結局お前らが荒してるのか。ここでも、弱い奴らを蹂躙するつもりなのかよ。

 気に入らねぇな。よくわからねぇが、お前らを叩きのめさなきゃ気分が収まりそうにないぜ」


 そう言うと、拳に握られたカードを掲げる。

 そのカードから光の渦が放たれ、灰色の男の全身を覆った。


「次元盗賊、グレー。お前らの力、すべて奪ってやる! この世界のものはその後で奪う。お前らに介入する余地はねぇんだ!」


 光の渦によってグレーの姿は変わる。ターバンが硬質化したようなヘルメットに変化し、目はゴーグルに覆われていた。灰色の装甲服を身に纏い、灰色のマントをたなびかせる。

 灰色の戦士が出現していた。


 グレーはカットラスを握ると、その斬撃で藁兵ストローマンたちの放った銃撃を弾き返した。そしてカットラスを片手に藁兵ストローマンの群れに飛び込む。国防軍の兵士であれば、一人で十人を一瞬で伸すであろう藁兵ストローマンたちがグレー一人によって瞬く間に倒された。

 グレーを狙い、藁兵ストローマンたちが群がる。その攻撃をグレーはカットラスで受けた。攻撃の中には、カットラスのつばにしていた拳銃の銃身を打ち付けるものもある。


「バカが! そこを攻撃しちゃあ、どうなるかわからんぞ」


 銃身が暴発した。その弾丸には砲撃といって過言でない威力があった。銃身を打ち付けた藁兵もろとも周辺にいた藁兵がたちまち木っ端微塵に消え去る。

 もはや、グレーに近づく藁兵わらへいはいなかった。遠巻きに銃撃を行うのみである。


「ここが未来世界とやらか。想像以上にいけすかん。くすんだ黄土色の兵士ども。こいつらが後の世を乱しているというのか。許せんな。

 それと戦うのも子供か。灰色の、今は下がっているがよかろう」


 その声は闇の中から聞こえる。突如、出現した闇からは二本差しの侍が現れた。鎧兜で武装してはいるが、どれも破損した不完全なものであり、返り血を浴びている。若々しくも精悍な顔つきだ。


「名乗らせてもらう。わしは長州藩士、日下くさか利一郎りいちろう蔦宗つたむね。貴様ら、未来の世を闇に染める者どもを討ち果たすものであるぞ!」


 その声に反応したのか、侍が出現した黒い歪みが渦となり、日下の肉体を覆い始めた。それは鎧のような形状を取る。


「これはなんじゃ。鎧か。ぶらっく。それが鎧の名か。いや、変化したわしの名なのかもしれんのぅ」


 全身を黒い鎧で武装した日下はそう呟いた。いや、もはや日下ではなく、ブラックと呼ぶべきだろう。


 ブラックに藁兵ストローマンが襲い掛かった。何十人もの藁兵ストローマンが集まり、ブラックに襲いかかろうとする。

 ブラックは鞘に納めた。無防備に見える姿だがそうではない。居合術だ。刀をいかに抜き、いかに敵を切り裂くかに集中する。その集中力によって時間はブラックの支配下となった。剣技を極めれば時間をも支配する。当然の理屈だ。

 ブラックが刀を収めた瞬間に時間は止まっていた。そして、抜き放った瞬間に時は加速する。時間を超越した超高速の斬撃に寄り藁兵ストローマンたちは斬られる。一瞬のうちに数多あまた藁兵ストローマンが倒れていった。


「この姿は時渡りの剣士、ブラック。死にたい奴から近づいてくるのがよかろう」


 そう呟きながら刀を収める。再び時の流れが緩やかになった。


「地球の人々の嘆きを受信した。我ら、宇宙警備機構、地球を守ることを使命とする戦士を派遣しよう」


 その声とともに、宇宙から光の柱が降り立つ。その光は人の形を取った。光は銀色に変化し、そこに魔法陣を思わせる青色の紋様が纏わりつく。

 それは光のぷらずま生命体せいめいたいが受肉した姿なのだ。


「私は……ブルー……。この星を守るため、やってきた……」


 ブルーは自分の肉体そのものに戸惑っているようだった。光の身体が肉の身体に変わったのだ。困惑も無理もなかった。

 だが、試すように身体を動かし、襲い来る藁兵ストローマンの腕を掴む。


「この星の人を傷つけたくない……。だが、その欲望のために暴れるなら、私は容赦しない……」


 そう言うと、そのまま腕の付け根をもぎ取った。さらに、襲い来る敵に掌底を当て、踵を空中に上げると、地面へと叩きつける。その藁兵には息はなかった。

 そして、腕に力を入れると、光線を放ち、近づいてくる藁兵ストローマンを薙ぎ払う。


 ブルルルーンブルルン


 黄色いバイクが走り、藁兵ストローマンの集団に近づいてくる。そこに乗っているのは黄色いライダースーツを着た女性だった。

 女性はヘルメットを脱ぐ。黒い長髪がなびき、弾ける汗とともに、その端正な顔が露わになった。


須賀すが瑞穂みずほ、現着しました。すでに三人が交戦中です。はい、ブルー、ブラック、それにグレー……? そうです、レッドはまだ出現していません。私も抗戦を開始します」


 エンジンを止めると、瑞穂はバイクから飛び降り、両腕のブレスレットを交差させる。瞬間、黄色い光が彼女を覆った。

 黒と黄色のラインが走るスーツが彼女の体を覆う。フードのような黄色のヘルメットと黄色いマントが装着される。


「カオスイレギュラーズ唯一の正式隊員レギュラーメンバー、コードネーム、イエローイレギュラー! 地球を好きになんてさせません!」


 そう言うと、イエローは駆け出す。藁兵は彼女を警戒して銃口を放った。


「あわっわわわわ」


 その瞬間、彼女はその場で転倒する。銃撃はことごとく空中を突き抜けていった。

 だが、この隙を見逃す藁兵ストローマンたちでもない。剣や槍、あるいは斧、それぞれの得物を振りかぶり、イエローに向かって飛び込んできた。


「なーんちゃって!」


 転倒したと思われたイエローは、つま先に力を入れ、倒れる寸前を維持していた。なんという筋力、なんという柔軟性であろうか。そして、そのまま体勢を立て直すと、腕の四方向から銃口が出現する。彼女は全身を改造したサイボーグであったのだ。

 四方の銃口は回転しつつ、弾丸を連射した。


「イエローイレギュトリング!」


 ガトリング式に放たれた銃弾は近づいてきたいた藁兵ストローマンをことごとく掃討していく。


「ふふっ、瑞穂ちゃんを甘く見た報いよね」


 天空が光った。その光は地上に近づくと、赤い人影に変わる。ズドーンと地響きを鳴らし、その男は現れた。


「フッフッフッフッフ、よく持ちこたえた。我が配下の者どもよ。褒めて遣わそう。

 俺こそが運命に選ばれた最強の戦士、カオスレッド! 地球は俺が守る。貴様ら、尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだ」


 男の身体が燃えていた。その炎は全身に巡り、やがて、燃え上がるような赤いスーツを身に纏う。赤いヘルメットには燃えるようなゴーグルがつけられ、額には第三の眼ともいうべき炎の紋章が意匠されていた。


「混成戦隊カオスイレギュラーズ! 我ら五人が揃えば、もはや敵はない」


 カオスレッドがそう宣言した瞬間、奇跡的にバラバラだった五人が並んでいた。それぞれのファイティングポーズが合わされ、奇妙な統一感がある。


「なんだぁ? 俺も入れてやがんのか? ふざけてんなぁ!」

「ふふっ、奇妙な男じゃの」

「……戦隊? ……チーム? どのような概念か理解できない」

「ええっ!? カオスレッド? そっちなの!? 違うじゃん。コードネームの変更申請出さなきゃだよ」


 四人はそれぞれの反応を示す。まるで、意志が統一されていない。

 このタイミングこそが最後のチャンスだ。藁兵ストローマンの一人、拓磨はこの瞬間こそ彼が見せる最後の隙だと直感した。

 気づかれないように剣を抜くと、瞬時に、カオスレッドの首を狙い、切りかかった。


「いい太刀筋だ」


 カオスレッドもまた瞬時に剣を抜き、拓磨の攻撃を防ぐ。そして、ゴーグルで覆われているにもかかわらず、カオスレッドの眼光が拓磨を射抜いていた。

 その時だ。曖昧だった拓磨の意識がはっきりした。自分は戦っている。侵略者として。そのカウンターとして、カオスレッドという宿敵がいる。だが、この構図は果たして正しいものなのだろうか。自分の倒すべき相手は目の前の男なのか。

 迷いが生じていた。


「その目、面白いな」


 カオスレッドがにやりと笑った。そして、交差していた剣に力を入れ、剣圧によって拓磨を弾き飛ばす。

 その衝撃によって放物線上に宙を舞い、地面に叩きつけられた。


 五人の戦士たちはカジキ師団長を囲む。


「たった五人で何ができるというのだ! お前ら、こいつらを袋叩きにしてやれ」


 カジキ師団長が軍勢に向かい、指示を飛ばした。

 それを五人それぞれが鼻で笑う。


「この場で立っているのは、もうお前だけだ」


 カオスレッドはそう告げると、チャクラム状に変化したリングブレードでカジキ師団長を斬り捨てた。


「そ、そんな……。神よ、俺たちに慈悲を……、救いを……」


 カジキ師団長は神に祈りを捧げる。しかし、聞き届けられることはない。そんな加持かじ祈祷きとうは天に届かない。

 拓磨もまた薄れゆく意識の中で、彼の最期を見届けていた。

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