パターン6 マヨ.3
俺の作ったマヨドキは売れに売れた。
食堂の人気料理から始まって、ドレッシングとして単品販売したら瞬く間に売れていくのだ。この世界の人々の口にそうとう合っていたらしい。
そこで俺は独立して、マヨドキ販売会社を立ち上げた。
生産工場から流通、販売まで、かなり苦労はしたが、流れが安定するとそこそこ大きな規模の会社となった。
そして俺の次の目標は……。
「社長、船のお時間です」
「わかった、すぐ行くよ」
今でも俺はマヨネーズを完璧なマヨネーズを作ることを諦めていない。まずは卵だ。鳥の卵を手に入れる。
この世界の人間は、大きく四種類いる。
哺乳類、爬虫類、鳥類、昆虫類だ。
昔はお互いに仲が悪く、戦争ばかりしていたらしいが、今では表向きは協力関係にある。
昆虫類以外は。
昆虫類は考え方が他の人間達と全く違うらしく、知能はあっても協力する事は出来ないと聞いた。
ちなみに、ここでそれらの人間を「鳥人」「爬虫人」などと呼ぶと、人種差別になるらしい。イヤなんで? と思わなくもないが、むやみな諍いを避けるためには慣習に従うしかない。
でだ。鳥の卵を手に入れるには、まずは鳥類の人間が住む国に行くしかないだろう。会社の経営が軌道に乗って自分がずっとついていなくても大丈夫になったから、俺自身で他の国を見て回ることにしたのだ。
そして着いた鳥の国。そこで俺達の案内をしてくれるという人と会い、俺はまずその言葉に驚いた。
「Hello! Nice to meet you!」
鳥の国の言葉は、英語だったのだ!
そもそも日本語が通じてた時点で疑問を持つべきだっんだろうけど、英語を聞くまでは気にしたこともなかった。ただ、なんで哺乳類が日本語で鳥類が英語なのかはさっぱりわからなかった。
そこで俺が学校で習った程度のカタコト英語で返すと、周りの皆が驚いていた。どうやら、昔仲違いしていた影響で、他国の言葉を使える人はほとんどいないらしい。通訳はかなり珍しい職業なのだとか。
これで全く知らない国でもなんとかコミュニケーションを取りながらやっていける、そう思っていたが。
「ふざけるな! 卵を食べるなんて野蛮な奴らだ!」
怒られてしまった。
どうやら、人間として進化した鳥類じゃなくても、同類としての意識が高いらしく、卵を食べるなんてもってのほかという事だ。
だからといって、ハイそうですかと諦めて帰るわけにはいかない。卵はどうしても無理だとしても、他になにか使えるものがないか探さなくては。
「この国の事をもっと知りたいので、産業や特産品について教えてください」
そういうと、彼は睨むように見上げてきた。
彼ら鳥類の人間は、かなり小さい。俺の腰くらいまでしかなく、かなりがっしりした体格をしている。その体の割に長い腕(翼)の先に、小さな手が付いていた。
「ふん、物好きもいたもんだな。まあいい、来なさい。お茶でもご馳走しよう」
そう言って彼は嘴をカチカチと鳴らした。
彼について街を歩く。鳥類の人の家は、彼らの体格に合わせてかなり小さいものが多い。店や宿屋などは他人種を想定して大きめの扉になっていたりするが、民家はほほえましくなるくらいの印象だ。そんな家の一つに通訳の彼が入っていく。彼の家らしい。案内人という仕事上、他人種と関わる事も多いので、家の天井は高めだ。
「なにか好みはあるかな。お茶の種類は揃えてるつもりだが」
「いや、オススメがあればそれを」
俺はすすめられたイスに座り、部屋を見回す。小洒落た棚に民芸品のような飾り物が飾ってある。
キッチンからコンロで湯を沸かす音と、なにかが炒められる香ばしい匂いがしてきた。
しばらくしてティーカップとポットを運んできた。
「口に合えばいいがね」
彼は羽の先の小さな手で器用にポットを操り、黄金色の液体がカップに注がれる。
「どうぞ」
「いただきます」
目の前に置かれたカップに手を伸ばす。それは、近いもので言えば玄米茶のような、香ばしく軽い飲み口のお茶だった。
「これは?」
「他の国ではあまり見かけませんがね、こちらでは日常的に飲まれてる、穀物茶ですよ。お口に合えばいいのですが」
俺はふぅと息をついて答える。
「とてもいいですね」
彼は微笑んで言った。
「それは何より。この辺はこの上質なモンドが採れてね。それを炒って淹れたモンド茶だ。モンドは粉に挽いてもいろいろ加工できて美味い。練って伸ばしたものを茹でたモンド麺なんてものもあるんだが、昼にどうだい?」
「いいですね、とても興味深い」
たしか蕎麦に似た麺類のはすだ。哺乳類の国にある麺類は出汁のとり方がおかしいのか、やたら味が濃い。麺類はこの鳥類の国が本場らしいから、ちょっと期待している。
「こちらは穀物や豆類の種類が豊富と聞いています。その辺りのお話を聞きたいですね」
「それならいい商人を知っていますよ。後で紹介しましょう」
「よろしくお願いします」
いいマヨネーズの材料が見つかればいいんだけど。
結果、商談は思ったよりも順調に進み、継続して商品を仕入れる流通経路を確保することが出来た。中でも穀物酢と植物性の食用油は、かなり良いものが仕入れられた。マヨネーズの材料として、少なくとも蛙の油よりは適しているだろうと思って、早速使ってみた。
マイルドなマヨドキが出来た。
マヨネーズではなかった。
何故!?
マヨドキはオリジナルもマイルド版も鳥類人に受け入れられ、大手チェーン店に置いてもらえる事となった。
会社はさらに大きくなった。
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