パターン5 邪魔されない.3

 最悪の選択だ。だが、俺の選べる道は他にない。

 あの後、盗賊ギルドへ向かった。そこならどうにか身を隠すことが出来るかと思ったんだ。

 すでに俺の事は街中の噂になっていた。猟奇殺人の犯人。しかも昨日の貴族の娘の犯人も俺って事になっていた。

 クソッ。なんだってんだ。


 なんとかギルド員になれないか聞いていたら、どういうわけか俺が例の犯人だとバレた。もしかしたらそういう情報を読み取る技能者でもいたのかもしれない。

 それだけならまだいい。経歴に箔が付くってもんだ。

 実はあの女、もう盗賊ギルドに所属してたんだ。嘘ついてやがった。

 それで、ギルド員を殺された以上、建前でも俺をただで引き入れるわけにはいかないと、盗賊ギルドのヤツら法外な金を要求してきやがったんだ。

 俺はそんなの嫌だ。だって俺が悪いんじゃない。アイツが勝手に死んだだけだからな。


 結局、俺は殺人犯として冒険者ギルドに追われ、ギルド員の報復として盗賊ギルドからも追われる事になった。

 まだこの世界に来たばっかりだってのに、いくらなんでも酷いだろ。

 だが、社会的地位は地に落ちても俺には無敵の肉体がある。

 俺はこの状況を打開する作戦を思いついた。


◇◆◇◆◇


「貴様、いったい何のつもりだ!」

「だから、今から俺がこの国の王様になってやろうって言ってんだよ」


 俺は玉座に座りながら、目の前に這いつくばる王様を見下ろして言った。いや、元王様か。平凡な見た目のおじさんだ。


「ふざけるな! 貴様などが王になれるはずがなかろう!」

「最強の俺が王様になった方がいいに決まってるだろ?」

「王とは、個人の強さでなるものではないわ!」


 元王様を守るように、兵士達が俺を取り囲む。ただ、ここまで来て俺に攻撃してくる者はいない。ここに来るために城の扉や、なんなら壁をぶち抜いて来た。当然散々攻撃されたけど、全部全く効かなかったせいで、かなり警戒されている。俺自身は兵士に攻撃はしなかった。だってこの後俺の戦力になるんだぜ? 減らすのはもったいないじゃん。


「でも、俺は誰にも邪魔されねぇ。言う事を聞かねえなら、この城を端からぶっ壊してやってもいいんだぜ」


 謁見の間に集う兵士達が武器を構えなおす。それを王様が手を振ってとどめる。


「貴様にその力があろうが、だからといって貴様が王になれるわけではない事くらいわからんのか? 国は人一人の戦闘能力でまとめられるものではない」

「はぁ? 別にその辺はお前らがやれよ。代わりに俺は近くの国をどんどん落としてやるよ。でかくなるぜ、この国はよ」


 そうだ、そうなれば俺の冤罪も晴れて、好きなだけ好きな事が出来る。どっちにしろ最終的にはそうするつもりだったんだ。ちょっと強引でも早めにやっちまえば後が楽だ。

 そんなやり取りをしていると、俺がぶち抜いた扉から一人の青年が入って来た。


「陛下! ご無事ですか!?」


 そいつは王様と俺の間に入ると、俺を睨みつけた。周りの兵士達が「隊長……」と言うのが聞こえてくる。警備隊の隊長とかそういうやつなのか。


「お前か、陛下の命を狙う者とは」

「命なんかいらねぇよ。俺が欲しいのはこの、城……いや、国だ」

「世迷い言を。拘束させてもらう」


 青年はなにやら呪文を唱えると、俺を囲むように光る輪っかがいくつか現れる。それがいきなり小さくなると、おれの体を拘束した。

 ま、こんな事で俺は止められないんだけどな。

 俺が腕を動かすと、強引に引っ張られた光の輪っかが引きちぎられて消えた。


「しょせんこの程度なんだよなぁ」


 俺は玉座から立ち上がり、そいつに向かって歩いた。とりあえずこいつ一人を再起不能までしてやれば、他の奴らは言う事を聞くかもしれない。

 青年は、俺に向けてさらに呪文を唱えた。無駄な事を。


「いいよ、お前とタイマンでやってやる。そしたら俺を誰も止めらんねぇって……」


 不意に足が滑り、バランスを崩した。そのまま倒れるはずが、地面が近づいてこない。

 俺は、宙に浮いていた。


「な、なんだこれ?」


 俺は宙に浮いたまま、ゆっくりと回転していた。自分の体勢をキープする事も出来ない。


「拘束、このまま拘留する」


 青年が言うと、兵士達か道を開ける。青年が手を振ると、俺は宙をゆっくり移動する。


「おい、下ろせよ!」


 俺が何を言っても、すべて無視された。


「これはアレか、重力干渉とかそんなヤツか。くそ、だから重力にもしばられたくなかったんだ」


 そんな俺の言葉に、青年が眉をひそめて答える。


「言っとくが、俺が出力を上げて重力干渉をゼロにしたら、お前は一瞬で空の彼方に飛んで行くんだぞ」

「はあ!? ふざけんな、それより下ろせよ! 早く!」


 青年も兵士達も、俺の言う事にはもう答えない。


「国家転覆を企むやからだ。地下牢に幽閉、その後処分を決める」


 青年が言いながら歩く。


「おい! いい加減に! いいから下ろせよ!!」


 俺が何を言っても、もうどうにもならなかった。


◇◆◇◆◇


 俺はそのまま牢屋に入れられた。

 でも俺を直接殺す事は出来なかった。むしろ、俺の手の届くところに物を差し出すと奪い取られて危ないとされ、俺に対する攻撃はすぐに終わった。

 尋問もされたが、俺に答えられる事は多くない。背後に組織があるわけでもなく、そもそもこの世界に来てから数日しか経ってないのだ。


 何も答えないうえに、拷問も効果がない俺は、そのうちほっとかれた。

 水も食料もないまま、もう三日が経とうとしている。


 こんなはずじゃなかった。

 俺は無敵で、誰にも邪魔されず、この新しい世界で気ままに過ごすつもりだった。

 なんでこんな事になっちまったんだ。



パターン5 終

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