パターン3 ゲーム.2
気がつくとテントの中だった。今まで旅の中で夜を越えるためのいつものテント。隣には格闘家と僧侶も寝ている。ということは、残りの三人が見張りに立っているのだろう。
胸騒ぎ、違和感。
俺はさっきまでどこにいた? 魔王の城から脱出し、人間の国の城へ。そこで王様に報告して……。
それからどうなった?
俺は思いつき、枕元に置いてある自分の刀を抜く。
薄暗がりでさえ照り輝き、
切っ先の刃こぼれは、当然のように跡もなにも無かった。
「どうした?」
戦士がテントの入り口から声をかけてきた。
俺は震える手をなんとか押さえつけながら、なるべく動揺を表に出さないように聞いた。
「魔王は、どうしてる?」
「今日はやけに静かだな。もしかしたら、警戒して戦力を城に集中させているのかもしれんな」
思わず、刀を強く握りしめた。
魔王がまだ、生きている。少なくとも戦士はあの激戦を経たとは思えない態度だ。
「いったいどうしたんだ? まさか、また夢を見たのか?」
俺は小さく頷く。俺の様子のおかしさに、戦士が神妙に言葉を続ける。
「どんな夢を? かなり酷いのか?」
「いや、逆だ。俺たちが、勝つ夢だ」
「そ、それは……めでたいじゃないか。珍しいな、良い方の夢を見るなんて」
彼には、俺以外のみんなには夢でも、俺にとっては……。
「そうしたらもう勝ったも同然じゃないか。夢の通りにやれば良いんだから」
なるべく軽い調子で喜ぶ戦士。なぜか思い悩む俺を励まそうとしているのだろう。
しかし、事はそれほど単純じゃないのを知っているのは、俺だけなのだ。
これは、絶望への始まりかもしれない。
◇◆◇◆◇
あれからもう、十回以上魔王を倒している。
その度に俺は過去へと引き戻された。引き戻されると分かっていれば、俺がこの世界へ来た直後へと戻る事も出来た。魔王を倒した後限定で、だが。
その間、いろんな事を試した。
一人で魔王を倒してみる。
魔王を倒さず放置する。
魔王に
全てを無視し、遠方へ旅に出る。
その結果分かったのは、どうやっても時間を戻されるということだ。
条件としては、魔王を倒す、人間の国が魔王に落とされるなど、エンディングを迎えるか、ゲームオーバーになると戻されるようだ。
一度は魔王を殺さないように監禁してみた事もあったが、それはそれで魔王との決着の一つとしてエンディングになってしまった。
どうしたらいいのだろう。それでも考えればまだ別の方法があるかもしれない。どんな事でも試してみるしかない。
◇◆◇◆◇
ここは異世界なのだろうか。それとも、俺が『デス&ソゥルズ』のゲームの中に、プログラムの一つとして組み込まれてしまっているのだろうか。
ここが異世界で、俺だけが同じ時間の間に閉じ込められているだけならば、ここから抜け出せばどうにかなりそうだ。
でも、ここがゲームの中ならば、どうすればいいのか。世界は、この時間のこの場所しかないのだ。
そして一番の絶望は、終わらない事だ。
普通ならゲームでも現実でも、何事にも終わりがある。
でも俺には無い。
死んでも死なない。電源ボタンも無い。何をしても、むしろ何もしなくても、ずっと続き続ける。いつまでもずっと。
俺はすでにこの長過ぎる時間を持て余していた。
ここがゲームではない証拠を探しても、何をもってそう断言できるのか分からない。同じ人に同じ質問をすると同じ答えが返ってくる。そんなの現実でもそうなるだろうに、疑いの中にある俺には、全てがプログラムの中の反応に思えてくる。
でも逆に、ここが確実にゲームの中である証拠もまだ無いのだ。
それが希望なのか絶望なのか。
俺に出来ることはなんだろうか。
もう一度女神に見つけてもらうしかないのか。それはいったい何万、何億分の一の確率なんだろうか。
それまで続けられるだろうか。
心が折れそうだ。
パターン3 終
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