第7話 三人で思い出作り

月城さんの転校発言後、僕と星宮さんは必死に場を盛り上げた。

そんな僕たちを見て月城さんも笑ってくれていたが無理に笑顔を作っていることはすぐにわかった。

あんなに楽しみにしてたステーキもお寿司もピザも、おいしくない。

やっぱり月城さんともっと一緒にいたい。

パーティーの片付けが終わると二人ともすぐに部屋に戻ってしまった。

独りぼっちの部屋で自分にできることがないかを必死に考えるが、僕にできることはなにも思いつかなかった。





「休みの日、どこか遊びに行かない?もう時間も残ってないしさ。」


金曜日の放課後。

月城さんからの誘いに僕と星宮さんはすぐに頷く。

あれからその件には触れずに明るく振舞っていた僕らだが、あの日の前のような歯車がかみ合った僕らには戻れていない。


「葵ちゃんともう会えなくなるわけじゃないし、たくさん思い出作ろー!」


「うん。僕も月城さんと遊びたい。」


「ありがと。日曜日は実家に帰らなくちゃいけないから、土曜日でいい?」


「わかった!朝から夜遅くまで遊ぼうね。」


「うん。それじゃあ。」


月城さんはすぐに部屋に戻ってしまう。

僕の部屋で星宮さんと一緒に腰を下ろして向かい合うと大きなため息をついた。


「そんなに早いんだ。転校って。」


「寂しくなるね。」


「私は有坂君がいるから大丈夫。」


「僕にも星宮さんがいるから。いや、やっぱり寂しいな。」


「うん。やっぱり寂しいね。」


星宮さんは僕の胸に頭をこつんと乗せ静かに泣いている。

二人の付き合いは長いし、月城さんは星宮さんが初めて素を見せた相手だ。

甘えることが嫌いな星宮さんがこんな風になるなんて。

いつまでも甘えてばかりではいけない。僕が支えなきゃ。

そう思ったのに、結局僕らは抱き合って大きな声で泣いた。

もしかしたらこの声が月城さんのもとに届いて、いつもの呆れた顔でだらしない僕を叱ってくれると馬鹿な期待をしながらいくら泣いても月城さんは僕のもとには来てくれなかった。






「よーし!今日は楽しむぞー!!!」


「朝から美鈴は元気ね。有坂君は体調悪そうだけど大丈夫?」


「大丈夫だよ。昨日あんまり寝れなかっただけだから。」


「もう。遠足前の子供じゃないんだから。まったく。」


こんな言葉を聞くことも最後になるかもしれない。

落ち込みそうになる気持ちを振り切るように大きな声を出す。


「よーし!僕も楽しむぞー!!!」


「その意気だよ有坂君。いくぞー!!!」


「おー!!!!」


「騒いでないでまずは駅にいくわよ。今日はたくさん遊ぶんでしょ。」


「「おー!!!」」


三つ隣の駅までいけば大きなデパートがある。

今日はそこに行きたいという月城さんの要望を受け三人で夜まで遊ぶことになっている。


「デパートについたらまずなにする?」


「まずは買い物したいわ。一生残るものが欲しいの。」


「じゃあ三人お揃いのなにか買おうよ。」


「そうね。三人一緒のもの。見つかるといいわね。」


「絶対見つかるよ!」


「僕も何か探してみるよ。」


そこから服、帽子、靴、アクセサリーなど様々な店を回った。

二人とも楽しそうに選んでいるが、こういうのに無頓着な僕は荷物持ちに徹している。


「有坂君は欲しいものないの?」


「うん。僕ってオシャレとか苦手で。」


「別にオシャレしなさいとは言わないけど好みくらいあるでしょ?」


「いや、まったく。派手じゃなければいいかな?」


「はー。わかった。美鈴、今日は有坂君を全身コーディネートするわよ。」


「賛成!有坂君の服をいつか選びたかったんだよね。」


「そんな悪いよ。」


「悪くないわ。自分の服はいつでも選べるけど、有坂君のは今日しかできないから。」


「月城さん。」


「なーんてね。ほら、ちゃっちゃとメンズコーナーに行くわよ。」


月城さんはペロリと舌を見せると一人でメンズコーナーに向かってしまう。


「いこ?」


「うん。」


その背中を星宮さんと追いかける。


「有坂君て好きな色とかないの?」


「ないよ。しいていうなら青かな?」


「青か。派手じゃないなら薄いほうがいいわよね。」


「見て見てー。こんなのあったよー。」


真剣に選ぶ僕と月城さんの前に、星宮さんが持ってきたのは龍のスカジャンだ。


「そんなの僕には似合わないよ!」


「いいや似合うかも、着てみてよ。」


星宮さんに無理やり着替えさせられる。

迫力のある龍が桜吹雪の中を昇っている。


「確かにかっこいいけど、僕には似合わないや。」


「いやかっこよくはないでしょ。」


「えーかっこいいよ。男の子は龍が大好きだもんね。」


確かに好きだが、こう言われてしまうと肯定するのが恥ずかしい。

僕が黙っていると星宮さんが悲しそうな顔をするので急いで頷くと、ぱぁっと笑顔になった。


「ほら葵ちゃん。龍好きなんだって。これ買う?」


「いやこれ三万円もするし、大人になってからにするよ。」


「確かに今の私たちには高いね。わかった。成人祝いで買ってあげるね。」


「こらこら美鈴。あなたいつまで甘やかす気よ。」


「一生。」


「怖いから即答やめて。なに有坂君もまんざらでもない顔してるのよ。」


軽く頭をチョップされる。

そこから僕は二人の着せ替え人形となりたくさんの服を着せられた。


「なかなか似合うものが見つからないわね。」


「そうだねー。何着ても似合っちゃうから選べないよねー。」


結局服を買うことはなかった。

原因は僕が似合う服が少ないというよりは二人の好みが全く違うことだろう。

とくに星宮さんは持ってくる服が独特でかなり恥ずかしい思いをした。


「とりあえずお昼食べよっか。葵ちゃん何食べたい?」


「なんでもいいわよ。」


「月城さんは好きな食べ物ないの?結構なんでもあるみたいだけど。」


「有坂君が好きなものでいいわよ。」


「いいよ。月城さんの好きなものが食べたい。」


「じゃあパスタ。」


「うん。」


月城さんは僕を見てはーっと大きなため息をつくと楽しそうに笑う。


「はいはい。こっちのハンバーグ専門店にしましょうね。」


「いや!パスタでいいよ。ボクパスタダイスキ。」


「めちゃくちゃ棒読みだけど。」


「あはは。よーし有坂君。早く行かなきゃ席埋まっちゃうよ。」


店につくと期間限定メニューが三品あるということでみんなで分け合いながら食べることにした。

とてもおいしかったので期間限定になんてしないで欲しいと心から思った。




食事が終わると三人で映画に向かう。

二人が見たいと言うことで恋愛映画を見たが僕にはさっぱりわからなかった。

幼馴染の女の子が死んだと思ったら実は生きていて今度は病気で亡くなった後奇跡が起きて蘇ってハッピーエンド。

星宮さんはぼろぼろ泣いてるし、月城さんも面白かったと言っているのでもしかしたら僕がおかしいのかもしれないが、やっぱり病室で生きて欲しいと願えば手術もなしに病気が治るのは少し突拍子もないような気がする。





その後ゲームセンターに寄り三人でプリクラを取って遊ぶことにした。


「やっぱり一生残るものって言ったらこれよね。」


「うん!いろいろ撮ろうよ。これが私たちの一生残る思い出の品になるんだもん。」


「うん。笑って撮ろう。ぐす。」


「あーもう泣かない泣かない。ほら撮るわよ。」


パシャ


「ラクガキは、やめよっか。」


「うん。書き足すところなんてないわ。」


出てきた写真に写る僕たちは笑顔いっぱいでこれから別れるなんて思えないほど綺麗な写真が撮れた。

泣き顔写さなくてよかったー。

そんなことをしているともう夕食の時間だ。


「僕、あんまりお腹空いてないや。」


「私も。美鈴は?」


「私もー。ハンバーグ大きかったもんねー。」


ということで僕たちはアイスクリームを買って帰ることにした。


「アイスおいしー。ほら有坂君。カリフォルニアブルーおいしいから一口あげる。」


「さすがにアイスをもらうのは恥ずかしいよ。」


「有坂君の恥ずかしいの基準がよくわからないわ。」


「恥ずかしくても食べるの。ほら。あーん。」


「う、うん。あーん。」


少し酸味のあるさわやかな味だ。確かにおいしい。


「ほら、あーん。」


「あーん。」


「あー!私の時は抵抗したのに葵ちゃんの時はされるがままなんてー。」


「ごめん。自然だったからつい。」


「私の勝ちね。」


「むぅ。ほら有坂君。あーん。」


「さすがにそんなにもらえないよ。むしろ僕のほうをあげるよ。あーん。」


「いいの!やったー。あーん。」


「有坂君。私にも。あーん。」


二人にアイスをかじらせてからとても恥ずかしいことをしていることに気づいた。

顔を真っ赤にしている僕に二人は笑いかける。


「あれ?有坂君照れてる?」


「ホントに基準が分からない人ね。」


僕は二人に曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。





そうしてアパートに帰ってきた僕らは誰が言うでもなく立ち止まった。


「今日でお別れなんだね。」


「大丈夫よ。消えるわけじゃないんだし。またいつか会えるわ。」


「そうだね。」


「じゃあね。バイバイ。」


月城さんが部屋に戻る。


「昨日は迷惑かけてごめんね。私も自分の部屋に戻るね。」


星宮さんも部屋に戻っていく。

なんだか悲しくなってとぼとぼと部屋に戻り布団にくるまると、うとうとし始める。

もう寝てしまおうかと思ったとき、ぶるるとスマホが揺れた。


『明日、少し時間ある?』


それは月城さんからのメールだった。











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