第6話 三人一緒にこれからも

「おまたせー。お肉焼いてきたよ。」


「お疲れ様。ありがとう。ごめんね。」


「あー!なにその合わせ技!こういうときは感謝だけでいいの。謝るのは当分禁止。」


「私も言ったんだけど。これは完全に有坂君のクセね。」


「謝るのは悪いことをした時だけだよ。それ以外は全部ありがとうでいいの。ね?」


「う、うん。ありがとう。」


「よくできました。それじゃあ引っ越し祝いを始めまーす!!」


「「「かんぱーい。」」」


炭酸飲料が入った紙コップを優しく当て、僕たちのパーティは始まった。

星宮さんは自分が焼いた自慢のステーキを大きく切り分け僕の皿に、

月城さんはサラダやオードブルに入っているキノコ料理や煮つけを乗せてくれる。


「はーい。男の子だからたくさん食べてね。」


「こら美鈴。そんなに食べたら偏っちゃうでしょ。」


「えーいいじゃん。有坂君もこんな日はお肉食べたいよねー?」


「まだ成長するかもしれないんだから栄養バランスを考えるべき。そうでしょ?」


二人からの問いかけに僕は曖昧に頷くことしかできない。

星宮さんと月城さんが同じ考えの時はいいけどこうやって別れた時はどうしたらいんだろうか。

自分で選択することに慣れていない僕に月城さんが助け舟を出してくれる。


「わかったわ。今日は好きなもの食べていいわよ。」


「ごめん。ちゃんとバランスよく食べるようにするから。」


「はいはい謝らないの。それともうあなたの前、お皿でいっぱいになってるわよ。」


「え?」


「ピザにお寿司もそれから有坂君が好きなもの全部。いっぱいお皿に入れておいたからね。」


気づけば先ほどまで一枚しかなかった皿が四枚も目の前にある。

しかも、ピザやお寿司、から揚げ、そしてハンバーグなど僕が好きなものばかりだ。

もちろん星宮さんの仕業である。


「月城さん。今日はバランスよく食べれそうにないや。」


僕の言葉に月城さんはあきれ顔で笑い、星宮さんは勝ち誇ったように笑っている。


「ふっふっふ。葵ちゃんは有坂君のことがわかってないねー。」


「美鈴みたいに甘やかしてばかりだとろくな大人にならないからやってるのよ。」


「大丈夫。そうなったら私が養うし。」


「美鈴に任せてたらホントどうなるかわからないわ。有坂君明日からはビシバシいくわよ。」


「お、お手柔らかに。」


そうして三人で笑い合う。

なんて幸せなんだろう。僕はやっと欲しかったものが手に入ったのかもしれない。


「これから私たち三人でたくさん思い出作ろうね。」


「あなたたち二人だと心配だし、私が頑張らなきゃいけないわね。」


「大丈夫だよ月城さん。僕も頑張るから。」


「美鈴にあーんされながら言われても説得力ないわよ。ほら。」


そう言って月城さんはスマホのカメラで僕の姿を撮る。


「あー可愛い!葵ちゃん私にも送って。」


「ちょっとまって!消してよ月城さん!」


「ダメよ。ほら送ったわよ美鈴。」


「えへへ。待ち受けにしちゃお。ほら有坂君見て。」


恥ずかしいと思いながらもそこに写る自分の姿に思わず声を失う。

見たこともない笑顔で笑う僕。

僕が捨てた写真の中にもこんなに綺麗な笑顔の写真はなかった。

やばい。なんか泣きそう。


「あ、ちょっとそんなに嫌だったの!?」


「ごめんね有坂君。すぐ消すから。」


「違うんだ。嬉しくて。嬉しくて、つい。」


僕の言葉に二人は目を細めて微笑んでくれる。

そして星宮さんは僕に抱き着く。そのまま月城さんは僕たち二人を抱きしめる。


「私たちでいっぱい思いで作ろっ!」


「そうよ。まだまだこれからじゃない。たくさん楽しいことして、たくさん写真を撮りましょう。」


「ぐす。うん。ありがとう。」


引っ越してきた先がここでよかったと本当に思う。

もしここじゃなかったらずっと一人だったかもしれないから。

これからは三人でたくさん思い出を作っていきたい。


「あれ、電話だわ。少し待ってて。」


「もーせっかくいい雰囲気だったのにー。」


「仕方ないでしょ。二人で遊んでなさい。」


月城さんが部屋を出た後も星宮さんは僕に抱き着いたままだ。


「せっかくいい所だったのに。でもこれからたくさん時間はあるもんね。」


「そうだね。たくさん写真も取りたいし。」


「じゃあ葵ちゃんが帰ってきたらスリーショット写真撮ろうよ。帰って来たみたい。葵ちゃんおかえりー。」


「おかえり月城さん。」


「うん。ただいま。」


どうしたんだろう。

月城さんは俯き少し震えている。


「葵ちゃん大丈夫?なんだか体調が悪そうだよ。」


「うん。大丈夫。」


「なにかあったの?」


「うん。えっとさ、私ね。」


その先の言葉を月城さんは絞り出すことが出来ないでいるみたいだ。

僕と星宮さんは言葉を待つ間自然と手を握っていた。

星宮さんの手が震えている。

なにか良くないことが起きると感じているのは僕だけじゃないみたいだ。


「私、転校することになったわ。」



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