第2話 星宮さんのお友達
ピンポーン
寝起きでぼーっとしている頭を覚ますために顔を洗っているとチャイムが鳴った。
なんだろうと思いながらも僕は急いで顔を拭くと玄関に向かう。
「おはよう。有坂くん。ごめんね。来ちゃった。」
「星宮さん?おはよう。どうしたのこんなに早くに。」
「余計なお世話だと思ったんだけど迎えに来ちゃった。」
「余計なお世話だとは思わないけど、僕今から準備だから先に行ってていいよ。」
星宮さんが来てくれたことは嬉しい反面、一緒に登校などするとあらゆる人からやっかみを受けそうだ。星宮さんも変な噂を立てられたら嫌だろうし。
「準備ってすぐできるでしょ?待ってる。」
「でも。」
「ダメ?」
星宮さんは悲しそうな顔で僕を見つめる。こうなってしまっては僕には断ることが出来ない。
昨日のことがあったせいか星宮さんの悲しそうな顔を見ると少し胸が痛くなる。
僕は小さく頷くと急いで準備に取り掛かった。
「急がなくていいからねー。怪我しないように気を付けて。」
そうは言われても学園一の美少女を玄関に待たせておくなんてことは気が引ける。
僕は五分もかからずに準備を終わらせると玄関に向かう。
「はやいね。」
「昨日のうちに教科書とかは準備しておいたから。」
「そっか。えらいえらい。」
「は、はずかしいからやめてよ。」
頭を撫でてくれる星宮さんの手を優しく振りほどくと先ほど以上に悲しい顔になってしまった。
「ぶー。昨日はあんなに私に泣きついてきたのにー。」
「昨日はその、僕はおかしくなってたし。」
「ほら、そうやって逃げるの禁止。いいことしたんだから黙って撫でられなさい。」
ただ教科書を昨日のうちに準備していただけでここまで褒められるものかとは思いながらも星宮さんに撫でられるのは心地よく、気づけば体を預けてしまっている。
「あ、いけない。もうこんな時間。有坂君。いこう。」
「う、うん。」
腕時計を確認すると先ほどより十分ほど経過している。
そんなに撫でられていただろうか?
とにかく僕と星宮さんは小走りで学校に向かった。
アパートの前の電柱の下に女生徒が立っている。
「遅い!五分くらい遅れるって連絡は来てたけどもう十分以上遅刻してるじゃない?あれ?君は?」
「ごめん。葵ちゃん。この子は有坂君。有坂君撫でてたら遅くなっちゃった。」
「撫でてたらってなによ。君大丈夫?美鈴に変なことされてない?」
「だ、大丈夫です。」
電柱の下にいたのは星宮さんが唯一仲良くしている月城葵さんだった。彼女は隣のクラスだが星宮さんとは仲がいいと聞いたことがある。で外見も星宮さんに負けず劣らずの美少女だ。少し目が怖いけど。
「ふーん。撫でられてたってさっきの話本当?」
「うん。有坂君なでなでしてた。」
星宮さんって月城さんの前では普通に話すんだな。いつも静かに外を眺めたり読書しているイメージが強かっただけに意外だった。
「まあ学校に遅刻するほどじゃないしいいわ。行きましょ。」
「葵ちゃんごめんね。」
仲良く歩き出す美少女二人に続くのはなんだか気が引けるので少しここで待っていようかな。
「なに立ち止まってるの?行こう。ほら。」
作戦失敗。
こちらに駆け寄ってきた星宮さんに手を掴まれ月城さんのところに連れて行かれる。
「有坂君。嫌がってるんじゃないの?」
「そんなことないよ。ねー。」
心配そうな顔をしている月城さんと笑いかけてくる星宮さんに見つめられた僕は曖昧な表情で笑うしかなかった。
「はー。確かに美鈴が好きそうなタイプね。有坂君って。」
「うん!有坂君見てると構いたくなっちゃうんだよね。」
「そう。学校ではほどほどにしとかないと本性バレるわよ。」
「確かに。学校では控えなきゃだね。ごめんね有坂君。」
僕は星宮さんの言葉になんと返していいかわからず小さく頷いた。
なんで残念そうにしてるんだ僕は。
だいたい星宮さんに心配してもらえるだけでもありがたいものだというのに。
そのあとは二人から少し離れてさも一緒に登校していないことを装った。
離れすぎると星宮さんがくるためギリギリを見極めなければならない。
学校が近くなり周りに生徒が増えると星宮さんはいつものクールな星宮さんになってしまった。
笑顔が少なくなり、あまり話さない。綺麗だけど少し怖い星宮さん。
僕はそんな彼女を見たくなくて、少し俯いて歩いていた。
昼休み。
購買でパンを買ったあと、なんとなく星宮さんを探して歩いていると後ろから声をかけられる。
「有坂君。少しいいかしら。」
「月城さん?」
僕は彼女に連れられて屋上に向かう。
屋上には誰もおらず、月城さんは古いベンチに腰掛けてお弁当を広げている。
僕も隣に座ると購買で買った菓子パンの袋を開けた。
「それ、糖分すごそうね。」
「えっ。うん。おいしそうだったから。」
月城さんは僕が手に持ってる砂糖まみれのパンを恨めしそうに見ている。
食べたいのかな?
「食べたいわけじゃないわよ。健康に悪そうだなって思っただけ。勘違いしないでね。」
「そんなこと思ってないよ。」
あまりの剣幕で誤魔化されそうになるが傍から見れば食べたいのを我慢しているようにしか見えない。
指摘すればさらに怒られそうなので黙っておく。
「そんなことはどうでもいいのよ。どうやってあんなに美鈴と仲良くなったの?」
「昨日引っ越しして、隣が星宮さんだったんだ。それだけだよ。」
「ほんとに?」
じーーーーーーーーーーー。
恥ずかしくて昨日会ったことを誤魔化したけどすっごい疑われてる気がする。
「ちなみに、私は嘘つかれるの大嫌いなの。ちなみにだけど。」
「そうなんだ。」
「最後のチャンスよ。」
「ホントになんでもないんだ。信じてよ。」
「そう。じゃあ美鈴に聞くわ。」
しまった!その手があったか。
僕は怒られることを覚悟して正直に話した。
月城さんは怒るどころか真剣に聞いてくれた。
「なるほどね。美鈴が有坂君に世話を焼きたがる理由がわかったわ。」
「うん。恥ずかしいんだけど。」
「恥ずかしいって。有坂君、朝もよっぽど恥ずかしいことしてたわよ。」
確かに。思い返せば顔が熱くなってきた。
「とりあえずスマホだして。連絡先を交換しときましょ。」
「どうして?」
「有坂君が困ったとき、力になれるならなってあげるからよ。」
「ありがとう。」
月城さんは怖い人かと思ったけど星宮さんと同じでとても優しい人だ。
やっぱりイメージで人を判断するのは良くないな。
「うふふ。ふにゃ~っとした顔しちゃって。なんかこうもリアクション取ってくれると美鈴が構いたくなる気持ちもわかるわ。」
僕は恥ずかしくなって顔をしゃきっとする。したつもり。
「はい。交換完了。じゃあね。困ったことあったら我慢せずちゃんと言いなさいよ。」
お弁当を食べ終えた月城さんは、片づけをして先に帰って行ってしまった。
確かにもう少しで昼休みは終わってしまう。
僕も急いで菓子パンを食べると教室に戻った。
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