第3話 右隣は星宮さん、左隣は月城さん

放課後。

星宮さんと一緒に教室を出る。

まさか僕と星宮さんが一緒に帰るなんて思ってもいないだろうからたまたまと周りは思っているだろう。

星宮さんもこちらに話しかけようとはしない。

昨日言ってた期待されている自分を演じているということなのだろうか。

素の星宮さんでも絶対みんなに人気出ると思うけどな。


下駄箱で待っていた月城さんがこちらに気づき軽く手を上げる。


「今回は早かったわね。頭撫でられなかったの?」


「恥ずかしいからからかわないでよ。」


「ごめんごめん。じゃあ帰りましょうか。」


こうして僕たち三人は一緒に下校する。

まあ、朝と同じように僕は少し離れたところにいるにいるのだが。

それにしても本当に綺麗な人たちだな。


「そういえば月城さんってどの辺に住んでるの?」


学校から離れ生徒たちが消えたことを見計らって声をかける。


「美鈴。有坂君に言ってないの?」


「あれ。有坂君って昨日挨拶して回ったんじゃないの?」


ん?どういうことだろう。昨日は確かにあいさつ回りをした。

左隣だけはチャイムを鳴らしても出てこなかったため今日向かおうと思っているが。


「なるほど。昨日は疲れちゃって仮眠を取っていたから気づかなかったのね。」


「うふふ。あのね有坂君。葵ちゃんは左隣の部屋の人だよ。」


「そうなの!?」


「そうよ。よろしくね。お隣さん。」


「うん。よろしく。」


「それでね。今日の晩御飯、葵ちゃんも一緒に食べる?」


「有坂君と美鈴は一緒に食べるの確定なのね。」


「もちろん。有坂君ってなんかほっとけないし。」


「構いたいの間違いでしょ。」


「え、今日も一緒に食べていいの?」


「いいもなにも決定事項だよ。私も一人暮らしだし、誰かと一緒に食べたほうがおいしいし。」


「ありがとう。」


誰かと一緒に自宅の食卓を囲むのはずっと僕の憧れだった。

それがこんな簡単に叶うなんて。あれ、なんか涙が。


「その泣き虫直さないと一生美鈴に構われ続けるわよ。」


「もう葵ちゃん!感動的な雰囲気になってるんだからそんなこと言っちゃダメ。」


「はいはい。じゃあ買い物して帰る?」


「そうだね。今日は有坂君の引っ越し祝いでパーっとやろー。」


誕生日すらロクに祝われなかった僕にとって祝いの席というのは憧れの一つだ。

それがこんな形で実現されるなんて。

僕はまたバカにされないように涙を隠すと二人と一緒にスーパーに向かった。








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