引っ越し先のお隣さんはクラスメイトのクール美少女だった。~学校では孤高の美少女が家では母性たっぷりで僕を甘やかしたがる~

赤いキツネとネコ

第1話 孤高のクール美少女はとっても母性的だった

「すいません。隣に引っ越してきた有坂です。よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。ってあれ?有坂君?」


「あれ?星宮さん?」


引っ越し先の挨拶に回っていると偶然にも隣がクラスメイトの星宮さんだとわかった。

星宮さんは学校一といわれる美少女で特に孤高でクールな雰囲気から男女ともに人気がある。

星宮さんはクラスメイト相手ですら必要以上に話さないのでこうやって会話したのは初めてだ。


「偶然ね。それにこんな時期に引っ越しなんて。なにかあったの?」


あった。

母さんが再婚を機に僕を捨てて再婚相手のところに行ったのだ。

でも、そんなことを話されても迷惑だろう。


「なんでもないよ。」


「そう?じゃあよろしくね。」


彼女は不信そうだったが何も言わずに扉を閉めた。


それにしてもイメージと違ったな。学校にいるときの近寄りがたいオーラは消えかなり優しそうに見えた。

まあ。家でくつろぐのは当たり前か。

僕は一人納得すると自分の部屋に戻る。


部屋には少しの段ボールがあるだけだ。

思い出の品をすべて捨ててしまったため荷物は少ない。

引っ越し作業はすぐにでも終わるだろう。


捨ててきちゃったな。アルバム。

きっともう見ることはないだろうと思い捨ててしまったことをいまさらながら少し後悔する。

でもアルバムを見ると悲しくなるだけだ。

母さんは母子家庭で一生懸命僕を育ててくれた。

だから僕も寂しいなんてワガママを言わなかった。

ワガママを言うべきだったのか、甘えるべきだったのか。

過酷な毎日に神経をすり減らしていった母さんはいつの日からか僕を愛してくれなくなった。

母さんにとって僕は宝物ではなく重荷になっていったんだろう。

再婚相手のもとに向かう母さんの表情は憑き物が取れたかのように晴れやかだった。

あの顔を思い出すとやっぱりアルバムは捨ててよかったと思う。


「有坂君いるー?って大丈夫?なにかあったの?」


「へ?星宮さん?」


星宮さんは不思議そうな顔をして僕のもとにかけてくる。


「ほらこれで涙拭いて。」


「涙。」


僕は知らず知らずのうちに泣いていたらしい。

それに気づくとさらに涙があふれだした。


「大丈夫。なにかあったの?よしよし。」


星宮さんが優しく背中をさすってくれている。それが何だか嬉しくて僕の涙は止まらなくなった。






「そんなことがあったんだ。」


誤魔化すことが出来なくなった僕は星宮さんにすべて話した。

クラスメイトの女の子に泣きながらこんな話をするなんて少し恥ずかしかったけど真剣な表情で最後まで聞いてくれた。


「そっか。大変だったんだね。よしよし。」


「ぐす。ごめんね。こんな話聞かせて。」


「謝らなくていいよ。私こそごめんね。そんなプライベートな話ずかずか聞いちゃって。」


「星宮さんは優しいね。なんだかクラスにいるときと全然違って見える。」


「あはは。あれは期待されている自分を演じているっていう感じだから。」


星宮さんは困った顔で笑う。


「私のことなんてどうでもいいよ。そうだ。一緒にご飯食べよ?」


「いいの?」


「うん。私も一人暮らしだし。じゃあ早速ってまだ引っ越したばかりだから台所は使えないか。じゃあ作ってくるから何か食べたいものある?」


「ハンバーグ。」


それは昔母さんがまだ僕に優しかったときに作ってくれていた大好物。

意識していなかったのに自然とその名を口にしていた。


「わかった。ハンバーグは得意だからまかせて!少し待っててね。待てる?」


「うん。」


「じゃあ行ってくるねー。」


そう言うと星宮さんは部屋を出て行った。

あの星宮さんに手料理を作ってもらえるなんてなんだかすごいことになった気がする。





「こら。箸の持ち方ちゃんとしなさいとダメだよ。」


「ごめん。おかしいのはわかってるんだけど正しい持ち方知らなくて。」


「ほら。こうやって。」


星宮さんは僕の手を取ると正しい持ち方を教えてくれる。

背中に星宮さんの体が当たりいい匂いふわりと舞う。


「はい。できたよ。」


「ごめん。」


「謝るの禁止。こういうときはありがとうって言うんだよ。」


「ありがとう。」


同い年の会話とは思えないものだ。星宮さんはエプロン姿で僕の隣に座ると料理に手を付けず僕の世話をずっとしてくれている。


「あー。もう。こぼしちゃって。」


「ごめん。慣れない持ち方だったからつい。」


「大丈夫。ゆっくり慣れて行けばいいから。」


箸の持ち方以上にこの関係に慣れない。

星宮さんはなぜか僕を子ども扱いしている。

確かに同年代に比べて少し華奢かもしれないがこの扱いは少しおかしい気がする。


「ねぇ。どうして星宮さんは僕に優しくしてくれるの?」


「どうしてって、なんだか可哀そうだもん。私も今は一人暮らしだけどパパとママとは仲良しだし、小さいころからいっぱい可愛がってもらった。それを少しでもおすそわけしたいだけだよ。」


「ありがとう。」


星宮さんは本当に優しい人だ。それになんだか子供のころに理想だった母親像に似ている気がする。


「ごちそうさまでした。」


「今日は私帰るから。困ったことがあったら言ってね。じゃあおやすみなさい。あ、一人で寝れるよね?」


「寝れるよ!」


からかうように笑うと星宮さんはお皿を持って帰っていった。


星宮さん。すごい母性だ。

こんなことを続けていたら僕は抜け出せなくなるかもしれない。

まあ、今日は僕が泣いていたから優しくしてくれただけで明日はないだろうけど。


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