十一話 死んでもお洒落がしたい者

 「あいつ来ないのか?」

「一応ごはんは扉の前に置いといた。」

「ご苦労なこった。」

「太樹が彼の分作ったんだろ?」


キッチンのある部屋の机に、太樹は朝ごはんの皿を並べていた。僕は順平の部屋の前にご飯を置いて帰ってきたところだった。


「紗耶香は起きたのか?」

「もう起きたって加奈さんが言ってたよ。」

「何でまだ来ないんだ?」

「女の子は準備に時間がかかるんじゃない?」


太樹は何かを思い返していた。多分妹の事を思い出している。


「お腹すいたねー。」

「つまみ食いしてもいいぞ?」

「太樹も昨日から食べてないだろ?」


「二人とも何も食べてないの?」


後ろからの声に僕と太樹は振り向いた。後ろには紗耶香と加奈がいた。


「私が起きるの待ってたんですか?」

「二人とも疲れて寝ちまっただけだ。」

「そうそう。」


太樹は心配でごはんが食べれていなかった。そして、僕も食べていなかった。


「そうなんだ。」


紗耶香は何故か少し嬉しそうな顔をしていた。


「今日はご飯何ですか?」


加奈が紗耶香の後ろから料理を覗いていた。いつもの冷静な顔と違い、子供のような料理を楽しみ顔をしていた。


「何ですか?」

「・・・別に。」


僕が笑ているのに気付いた加奈は、いつもの顔に戻って怒っていた。


「お前は別にここで食べなくても外で食べれるだろ?」

「・・・・・。」

「いいじゃん。私も加奈ちゃんと一緒にご飯食べたいし。」

「わたしは別に。」


太樹の言葉に加奈は黙ってしまい、隣にいた紗耶香が加奈の腕をつかみ引っ張った。加奈は少し照れていた。


「太樹もちゃんと人数分作ってるじゃん。」


僕の言葉を聞き、全員の目がテーブルに落ちる。そこには四人分の料理が並んでいた。僕と紗耶香は笑った。


「うるせえ、手合わせろよ。」

『いただきます。』


僕達は机の前の皿に手を合わせた。以前は当たり前に並んでいて、朝ごはんはいらないとすら思っていた。死を目の前どころか体験したことで、食という生きる行為が、特別に感じた。


「おいしい!」

「・・・・おいし。」


紗耶香はにっこりと笑って頬を触り、加奈は少しにやけるように笑っていた。その姿を見て太樹は笑っていた。


「・・・・何?」

「いや、別に。」


太樹の視線に気づき、加奈が睨んだが、太樹は笑みを浮かべた。加奈はその顔から逃げるように横を向いた。


「今日はまだあれ来ないね。」

「転送か?そういえば昨日はこのくらいの時間だったか?」


僕と太樹の会話を聞き、紗耶香はビクリと反応した。少し緊張した顔になった。


「この時間まで来ないのなら、昼ぐらいかもしれませんんね。」

「そういうのあるの?」

「私の体感なので何とも。」


その言葉を聞いて、紗耶香は少し安心した顔になった。加奈がその顔を確認しているのが見えた。安心させようとしたのか?


「皆さんこれから時間はありますか?」

「教会に飛ばされないなら何もないけど。」


加奈の言葉に僕が答え、紗耶香と太樹は同意するように頷いた。


「なら、皆さんの武器を買いに行きましょう。」



トン・トン・トン・・・・


僕達は武器を買いに、町に行くことになったが、僕はその前に順平の部屋を訪れた。


「順平くん、皆で町に行くけど、君もどうかな?」


皆は無駄だと言ったが、僕は一応誘ってみた。また加奈が少し呆れてた顔でため息をついていた。


「・・・・・。」


返事が無い、僕はため息をつき、順平の部屋を離れようとした。


「何でそんなに普通でいられるの?」


部屋の中から順平の声がした。小さな細い声だったった。


「普通って?」

「普通は普通じゃないか。今日も戦うのに平気な顔して、皆は恐くないのか?」


順平の言葉は、だんだんと大きく早くなっていった。


「皆恐いさ、君と同じで。」

「嘘つくなよ。恐がってる僕を皆笑ってるんだろ。」


その言葉には、恐怖よりも何か、焦りの様なものを感じた。何を焦っているのか僕には解らない・・・分からないけど・・・・。


「恐がることを笑わないけど、そこから出ないで何か解決できるの?」


僕はその言葉を言い残し、部屋を後にした。朝の置いごはんが無くなったいることに安心した。



『スゲー------』


大声をあげたのは僕と太樹だった。そこには男のロマン。店の中にずらと数多くの武器が、棚や壁に飾られ、僕達はおもちゃ屋に入った子供のようだった。


「いいですか武器は高いので慎重に買ってください。」

「この鎧カッケー!」

「太樹見て、日本刀あるよ。」

「・・・・・二人とも聞いてない。」


加奈から怒りの気迫を、僕と太樹は感じ振り返ると、加奈の表情を見て僕達ははしゃぐのをやめた。


「皆さんいくら持ってますか?」

「僕は8コイン。」

「俺は16コイン。」

「私は4コイン。」


それぞれのコインの枚数を聞いて、加奈は何かを考えていた。


「あなたは新しい剣と、軽装の鎧を少し揃えてください。」

「う・・・うん。」

「あなたは剣はいいから鎧を揃えてください。」

「お・・・おう。」

「加奈さんは少し私と来てください。」

「は・・・はい。」


加奈は僕達に指示を出していった。僕はもう剣がボロボロなので新しいのを、太樹は狼男から奪った黒い剣があるので、鎧だけを揃える指示だった。


僕達は頷き言われた物を買いに行った。というか早く店を見て回りたかった。紗耶香は加奈と一緒に店の奥に消えていった。


僕は壁に掛けられている剣を見ていくと、三桁の数字が書いてある。壁にあるのは高いのか・・・・そう願いたい。


「すみません。8コインで装備を買いたいんです・・・・。」


店員に話しかけたが、店員の動きに違和感を感じた。ただこちらを向いただけなのに、不気味に感じた。


「8コインですね。あちらの棚に並べてあります。」


笑顔で明るい声ったが、そこに体温を感じなかった。仕草も声も機械的に感じた。


買い物を終え、店の外に出た。外には加奈がいた。


「槍を買ったんですね。」


僕は槍と短剣、そして鎧を胸の分だけ買った。


「何かで槍が武器で一番いいて聞いた気がして。」

「いいんじゃないですか?」


加奈と僕は店の壁に並んでもたれた。僕は自然と町の人たちを、何か探るように見ていた。


「お店の人と話したんですか?」


加奈の言葉を聞き僕は何も言わずにうなずいた。


「この世界の人間は自分が無いんです。」

「・・・え?」

「最初にセリアがこの世界には、死にたいと思う人がいないと言いていたのを覚えていますか?」


僕は再び頷いた。加奈は町の人に目を向けた。


「セリアが決めた仕事を、何も疑わず、一人ひとりがただ動く社会、それが誰も死にたいと思わないこの世界です。」

「それは・・・・。」

「嫌ですか?」


僕の迷いに加奈は詰め寄った。


「この世界と私達がいた世界。どちらの方がいい世界ですか?」


加奈の言葉に僕は答えられなかった。こちらの世界の話を聞いて嫌だという感情を抱いたが、元の世界のほうがいいかと聞かれると分からなかった。


「分からないですよね・・・・私も分からないです。」


加奈は空を、というか世界を見ているように感じた。


ガシャ・・・・・・


紗耶香と太樹がお店から出てきた。


「やっぱりよく似合います。」


紗耶香は黒いセーラー服の上から、青紫のコートを着ていた。


「いいの?本当にもらって?」

「いいですよ。このコートは回復魔法の効果を上げるのであなたにあってます。それによく似合ってます。」

「ありがとう。」


加奈の言葉に紗耶香が照れる。まるで普通の女子の会話だ。・・・・女子だけど。


ガシャン・・・・


太樹から鉄が当たる音がした。鎧が揺れる音だった。僕達は太樹を見た。


「・・・・か・・・・」

「・・・・ダサ。」


危なかった。危うくかっこいいと言いそうだった。太樹が全身に着た鎧の、胸の真ん中に突いたそのメタリックな骸骨を・・・女子はダサいと言ったけど。


「・・・・・。」

「うそだよ・・・・似合ってるよ!」


無音で落ち込む太樹を、紗耶香は励まそうとした。しかし、その動きが止まる。太樹の姿が光っていたからだ。


「・・・・来た。」

「大丈夫。」


一瞬で不安な顔になった紗耶香を、逆に太樹が励ました。そして、太樹は僕を見て頷いた。


僕は太樹に頷き返した。三回目の戦いが始まる。








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勇者は教会で蘇る 伊流河 イルカ @irukawa

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