十話 死んでも守りたい物

 目を開くと僕は教会にいた。腹に刺さっていた剣は、僕の傷と共に消えていた。右手の甲を見ると、そこには1と書いてあった。


「残り一機だね。今の戦い方はもう厳しいんじゃない?」


僕の目の前にセリアがいた。今の戦い方・・・・・。


「そうかもね。」

「かもねって・・・フフ、もう次で終わるかもしれないのに?」

「・・・・。」

「残り一機でも、仲間が死ぬんなら自分が死ぬだろ?」

「・・・・。」

「優希は正しさの奴隷みたいで気持ち悪いね。」


セリアは僕を貶してケラケラと笑いだした。僕はそれを見て少し顔をしかめた。


「皆は?」


僕がセリアに尋ねると、セリアは僕の後ろを指さした。後ろを振り向くと、皆が転送されてきた。


「何で僕だけ?」

「死んでた方が転送しやすいんだよ。こっちで身体を作るだけだから。」


四人は戦いの終わった姿で転送され、太樹と紗耶香が傷だらけになっているのに気付いた。かなり激しい戦いになったのだろう、しかし、誰もいなくなっていなかった。


「よかった。」

「心にもないこと言うね、奴隷君。」


セリアが僕にだけ聞こえるようにつぶやいた。僕は聞かなかったことにしてみんなに駆け寄った。


「皆無事でよか・・・・。」


太樹と加奈の顔を見て僕は言葉を止めた。太樹は少し怒った顔をし、紗耶香は悲しそうな顔をしていた。


「よかった・・・生きてた。」


紗耶香は傷ついた身体を引きずり、太樹がそこに肩をかした。紗耶香は、僕の目の前でしゃがんで泣いてしまった。僕はその肩に手を置こうとしたが、その手を止めた。


「おい・・・。」


太樹はその横に立ち、僕を睨んでいたが、ため息をついた。


「助かった。」

「いや・・・・僕は」

「でも、もうするなよ?」


その太樹の言葉を聞いた、僕は驚いた顔をした。


「死ぬの前提はもう無しだ。」

「確定で死ぬって言ったんだけど?」

「だから、もう無しだ。」


僕は太樹と紗耶香の顔を見た。二人は僕を心配している顔をしていた。


「もういいかな?」


セリアは僕の後ろから顔を出し、皆の様子を見た。


「皆ボロボロだねー。」


セリアは傷だらけの姿を見て笑い出した。そして加奈の方を見た。


「今回は危なかったね加奈ちゃん。」

「別に私一人だけならどうにでもなりました。」

「一人だけならね。」


加奈はセリアの前に立った。背の低いセリアを見下ろしていた。


「私は別に自分が死のうが、他人が死のうがどうでもいいです。」

「そうかな?」


セリアは不敵に笑い首を傾げた。加奈はそれを見てため息をついた。


「早く報酬をください。」

「はーい。」


セリアは加奈にコインを渡した。そして僕達の方を見て手招きした。


「肩貸すか?」

「・・・ありがとう。」


太樹の肩に手を置き、紗耶香は立ち上がった。その左手の数字が2になっていることに、僕は驚いた。


「紗耶香ちゃんもレベル上がったんだ、偉いねー。」


セリアもそのことに驚いて、紗耶香の頭を撫でようとしたが、紗耶香は後ろに下がった。それを見て太樹が前に出た。


「太樹君も雰囲気変わったね?」

「変わってねえよ。迷わなくなっただけだ。」

「はは・・・変なの。」


セリアは太樹の姿を見てまた笑った。小ばかにする様に笑っていた。


「それに今回君が大物倒したんだね。結構強かったのにすごいなー。」


セリアが太樹の左手の甲を見る。そこには4と書いてあった。狼一体では多分僕と同じで3まで上がっていないはずだ。


「あの狼男は強かったから、一気にレベルが上がりましたね。」

「ゲームの経験値みたいだな。」

「どんどん上がりにくくなりますよ。」


僕が太樹のレベルに気付き、加奈が説明してくれた。加奈が今まで倒した敵の数は、僕達の比ではない、それでも一レベルも上がっていない。100レベルに上がるのに一体、魔物を何体殺さなければいけないのだろうか?


「君たちは本当に優秀だなー、ねえ加奈ちゃん。」

「そうですね。」


セリアは加奈に話しかけていたが、目線は順平を見ていた。順平は顔をしかめて目をそらした。


「三人にはスキルをあげるね。」


セリアは僕達三人の頭の上に手をかざした。頭の中に経験が流れ込む、この感覚はなかなか慣れない。二回目の僕と太樹は耐えられたが、紗耶香は尻もちをついた。


「大丈夫?」

「平気・・・・ありがとう。」


尻もちをついた紗耶香に僕は手を差し伸べ、紗耶香はその手を取ろうとしたが、その手を止めた。


紗耶香はその手をゆっくりと、自分の足の傷に向けた。


「ヒール。」


傷に向けた手が光った。その光が当たった傷が、みるみると治り始めた。僕達が死んで傷が治る時の様に、紗耶香の傷の治っていく。


「これが私の・・・・。」


自分のスキルを確認するように、紗耶香は自分の手を見た。そして、僕の手を借りずに立ち上がった紗耶香は、痛みを確かめるように足踏みをした。


そして、紗耶香は太樹の方を見た。


「ヒール。」


紗耶香は手を太樹に向け、スキルを唱えた。太樹の全身が光り、全身の傷が治っていった。


「すげー、ありがとう。」

「どういたしまして。」


太樹は自分の身体を見て驚いた。それを見て紗耶香は笑っていた。そして、紗耶香は順平の方を向いた。そして、紗耶香は順平に近づき、手をかざした。


「ヒール。」


順平は自分の足の傷が治っていくことと、紗耶香が治してくれることに驚いていた。


「・・・何で。」

「べつ・・・に・・・・」


紗耶香の身体はふらつき、紗耶香は意識を失った。その身体を加奈が支えた。


「大丈夫か?」


僕と太樹はそばに駆け寄り、紗耶香の様子を見た。顔いろが悪くなっている。


「魔法の使いすぎですね。もともと、体力も相当消耗してましたし・・・意識を失うのも無理ないです。」

「僕も魔法を使った時、身体しんどかったな。」

「魔法は使うと体力を消耗しますし、使いすぎれば死んでしまいます。」

「死ぬのか?」


太樹は大声で焦った声を出した。加奈は首を横に振った。


「これくらいなら大丈夫です。」

「死んだことがあるの?」

「・・・・・・・・。」


僕の問に加奈は何も答えなかったが、沈黙が回答でもあった。そして、加奈は紗耶香を抱えたまま順平を見た。


「気絶してますが、お礼ぐらい言ったらどうですか?」

「え・・・あ・・・・。」


順平は何も言えなくなってしまい、下を見た。加奈はそれを見てため息をついた。そして、順平にコインを5枚投げた。


「何で?」

「この人達はお人好しなので、あなたの宿泊費を払う前に私が払います。」


順平は静かにそのコインを拾った。加奈は紗耶香を抱えて外に出て行った。


僕と太樹は目を合わせ、その後を追おうとした。しかし、太樹は立ち止まった。


「おい・・・セリア。」

「ん?・・・何だい太樹くん。」


セリアは珍しいという顔で太樹を見た。


「100レベルで生き返る時、現実はどうなってるんだ?」

「どうなってるって?」

「現実では今二日たってるのか?」


太樹は少し緊張している顔をしていた。セリアはそれを見て笑った。


「時間は立ってないよ、皆生き返るのは死ぬ少し前だ。」

「・・・そうか。」

「聞きたいのはそれだけ?」

「・・・今はそれだけでいい。」


太樹は外に出て行った。もっと聞きたいことがあったが、僕も太樹と一緒に出た。


「生き返った後が気になったの?」

「・・・妹がな。」

「・・・そっか。」


太樹と僕はしばらく何も言わずに歩いた。僕は少し気まずくなっていた。


「妹に嫌われたのがこわかったんだ」

「何が?」


突然の言葉に僕が首を傾げた。


「死にたいって、思った理由だよ。」


太樹は少し恥ずかしそうに眼をそらした。


「何で嫌われたの?」


僕の質問に太樹は少し考えた。そして、空を見上げた。


「恐がらせたんだ。あいつと俺が一番見たくないものを、俺はあいつに見せちまった。だから、それがショックだった。」


太樹は小さくため息をついた。


「もっと違うやり方がいっぱいあったのに、俺は感情で動いちまった。あいつを守り続けなきゃいけなかったのに。」


太樹は自分の拳を見つめていた。その眼には後悔があった。


「じゃあ、守り続ければいい。」

「・・・・え?」


太樹は僕の言葉に驚いた。そして僕の目を見た。


「妹が大切なんだろ?なら・・・嫌われたって守り続ければいい、どう思われたって、守れないよりはましだろ?」


太樹は僕の目を見たまま固まった。徐々に口角が上がっていく。


「あははっははは。そうだな、お前の言う通りだ。」


太樹は目元を抑えて笑い出して。一時笑い続けてから僕の方を見た。


「なあ優希、俺は生き返るよ。」

「協力するよ太樹。」


太樹を見て僕も笑う、太樹は僕に手を差し出した。僕はその手を握りしめた。


「お互い100レベルまで頑張ろうぜ。」

「・・・・うん・・・・そうだね。」


生きるのには目標が必要だ。でないと、何で生きているか分からなくなる。生きる理由を見つけた太樹が、少し羨ましくなった。


僕には無いものだから。




























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