五話 死んでもお腹が減る者

 トトトトトトトト・・・・・・


宿の一室には調理の出来る自由スペースがあり、その中から野菜を切る音が、心地いい音を刻む。


「料理出来るんだな。」

「あ?なんだよ?」

「以外だったから。」


料理をしていたのは太樹で、僕はその横にい椅子を置き、太樹が調理しているのを僕は物珍しそうに見ていた。


次の日の朝、一晩すぎて太樹はお腹がすいたようだったので、一緒に加奈といった屋台にいったが、軽い食事でも2コインでは足りず、食材だけを買ってきた。


「何で料理出来るの?」

「そんなに珍しいことか?」

「男子高校生なら珍しいんじゃないか?」


太樹の包丁が止まった。何かを考えるように切っていた野菜を見ていた。少し間をおいてから再び太樹は包丁を動かした。


「家は母親がいなかったから飯は俺が作ってたんだよ。」

「そうなんだ。」

「ああ。」


太樹が沸かしていたお湯に野菜を入れた。お湯の沸騰する音だけが部屋で鳴っていた。


「料理は好きだったの?」


沈黙に耐え兼ねて僕は太樹に尋ねた。


「俺が料理しなきゃいけなかったんだよ。」

「じゃあ嫌いだったの?」


太樹は少し驚いた顔をし、小さなため息をした。


「妹が俺の料理好きだったんだよ。」


太樹はすごく小さな声でつぶやいた。口元が少し笑っていた。


「それは良かったな。」


太樹の動きが再び動きが止まった。先ほどまでの小さな笑顔が消えた。


「何を作っているんですか?」

「・・・いい匂い。」


僕が何かを言おうとした時、部屋の中に加奈と紗耶香が入ってきた。


「朝ごはん太樹君が作ってるんだ。」

「へえ・・・以外ですね。」

「うるせえ・・・。」


太樹の姿を加奈は僕と同じく物珍しいそうな顔をした。その後ろで紗耶香は気まずそうな顔をしていた。


「二人でどこか行こうとしてたの?」

「それは・・・。」


加奈は後ろにいる紗耶香を見た。紗耶香は加奈に対し頷いた。加奈は少し言いずらそうな顔をした。


「紗耶香さんがお腹がすいたようだったので、ごはんに一緒に行こうとしたんです。」


言いずらそうだったので何かと思ったのだが、女子からしたら言いずらいのか。


「食べるか?汁物だから腹に入りやすいぞ。」


太樹は返答を待たずに、棚から人数分の皿を出し机に並べた。


「私もですか?」


加奈が自分の分の皿が置かれていることに気付き、太樹の顔を見る。


「別に要らないならいいけど?」

「あ・・・ありがとうございます。」


何かぎこちない会話になっていた。僕も含めて太樹のギャップに調子が狂う。


「「「おいしい。」」」


三人ともスープを口に運んだ途端に驚いた。塩で味を調えたシンプルなスープだったが、家庭的なおいしさがあった。


「料理上手ですね。」

「・・・おいしい。」

「普通だろ。」


女子二人が素直に関心している。太樹は少し照れた様子を見せた。


「料理は作った方が安くすむんだね。」

「そうなんですか?」


僕の言葉に加奈は首を傾げた。どうやら一度も自分で作らなかったようだ。


「眼鏡の人は?」

「呼んだけど部屋から出てこなかった。」


スープの材料を買って帰ってきた時、順平の部屋を訪ねたが反応がなかった。


「なあ、俺達はまたあの化け物達と戦うのか?」


スープで温まった空気を、太樹の言葉が切り裂いた。


「戦いますよ。これかた毎日。」


加奈は呟き僕らには目を向けず、スープを口に運んだ。美味しそうな顔を浮かべる加奈の前の二人の顔は、緊張が浮かび上がっていた。


「またワープさせられるの?」

「まず教会に飛ばされて、その後魔物のところにワープさせられます。」

「時間は?」

「ランダムです。なので皆さん装備は常に持っていた方がいいです・・・二人とも持ってますね。」


加奈は僕達の腰に目を落とし、僕達が剣を持っていたことに気付く。二人とも無意識に剣を持っていた。カッコイイから・・・


加奈が持つように言ったのか、紗耶香の腰にも剣をつけていた。


「あいつにも教えた方がいいか。」

「何故ですか?」


太樹は立ち上がり順平の部屋に向かおうとしたが、加奈がそれを遮った。


「剣持ってた方がいいだろ?」

「彼が持ってきても何もできませんよ?」


加奈と太樹が睨み合う。空気が氷の様に冷たい。紗耶香はオロオロと二人を見た。


「時間切れです。」

「・・・・は?」


太樹は加奈の手が消えていくのを見て、自分の手も消えていることを確認した。


目の前が真っ白になった。


「うあああああああああ・・・・まただああああ。」


気付けば僕達は教会にいた。最初と同じ星の文字の五つの端に、僕達はそれぞれ立っ

ていた。


「あれ?・・・・あれれ?」


僕達が前を向くと、そこには神様ことセリアがいた。セリアは首を傾げながら近づいてきた。


「君たち装備は買わなかったの?」

「2コインで買えるかよ。」

「あれ?君たちには加奈ちゃんが宿泊費を出してくれると思ったけど。」


首を傾げたセリアは、首を傾げたまま順平と紗耶香を見た。


「なるほどねー君たちそういうタイプか・・・。」


順平と紗耶香から、僕達にゆっくりとセリアは目を向けた。全員宿に泊まったのは姿でわかったと思う。


「君たちは本当に死にたいのかな?」

「どういうことだよ?」

「だって君たちは自分たちが生き残る確率を下げたんだよ?」


紗耶香が僕と太樹を気まずそうな顔で見ていた。


「二人の生存率を上げたんだよ。」

「ほっとくと気分悪いだろ。」


僕と太樹は後ろの紗耶香の顔を見てから、セリアの方を向いて笑った。それを見たセリアは下を見た。


「死んでも同じことが言えるのかな?」


セリアは小ばかにする様に僕達を笑った。昨日と同じ恐怖を煽る笑顔だ。しかし、僕達はひるまなかった。


「言えるよ。」

「言ってやるよ。」


僕と太樹はセリアの前に立った。セリアの目から目を離さなかった。


「あはははははははははははは。」


セリアは上を見て大笑いし始めた。セリアを纏う空気が柔らかくなるのを感じた。


「いいね。君たちはすごく愉快だ。」


セリアの空気は柔らかかったが、僕達を馬鹿にしているのは変わらなかった。太樹は少し怪訝な顔をした。


「それじゃあ転送するね。」


僕達は光に包まれた。目を開けるとそこは昨日の洞窟だった。僕は素早く頭を下げた。


「何してるんですか?」


横にいた加奈は僕を見下ろして首を傾げていた。


「いや・・・昨日の・・・。」

「大丈夫ですよ。殺気を感じ取りません。」

「なんで・・・スキルの一つ?」

「はい。」

「君はいくつスキルを・・・」


そう言い僕はセリアの左手に目を落とした。そこには99と書いてあった。


「そのレベルて・・・あと1レベルで君は。」

「99になってから今四日すぎています・・・98から上げるのは一か月近くかかりました。」


それを聞いた僕達は驚き何も言えなかった。それを見た加奈はため息をついた。


「来ましたよ。」


そう言った加奈は僕達の後ろを指さした。僕達は後ろを向いた。


「グルルルルルルルル。」


そこには大型犬より大きい犬・・・恐らく狼が六匹こちらを見ていた。昨日の猿と同じ模様と目は赤く輝いていた。


「生き残れるといいですね・・・皆さん。」

















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