一話 死んで死なされる者

 「僕らの世界には魔物という存在が居てね、数百年前、僕の力で洞窟の奥に封印しているんだが、その脅威はまだ消えてない。そこで、君たち星の勇者に封印した洞窟の中に入ってもらって、魔物を倒してもらいたいんだ。」


セリアは静まり返った僕たちを無視し、この世界に僕たちを呼んだ理由を説明した。


「な・・・何で僕たちなんだ。この世界の問題なら君たちで何とかしなよ。」


眼鏡の少年、順平がセリアに怯えながら訴えた。セリアは順平を見て首を傾げた。順平は肩をびくつかせる。先ほどの太樹の様に殺されるかもしれないと思ったのだろう。


「死にたくないからだよ。この世界の人間は君たちと違って死にたくないんだ。」

「そんなの僕たちだって・・・」


セリアの言葉に順平は反論しようとしたが、セリアの目を見て黙った。そう、僕たちは「死にたい」と願ったのだから、そこには何も言えない。


「それにしても君たちは贅沢ものだよね。死にたいだなんて、君たちの世界は相当恵まれてるよ。」

「どういう意味だ?」


セリアの言葉に太樹が反応する。二度目の死を経験したのによく口を開けるなと、素直に関心した。しかし、その言葉に物申したい気持ちもよくわかる。


「だってそうじゃん、死にたいなんて明日も生きる前提の願いじゃん。この世界の人たちはね、明日を願って生きているんだ。死にたいだなんて、この世界の人間は一人も願ったことない。」

「・・・・・・。」


その言葉に、僕たちは一言も反論できなかった。ぐうの音も出ないとはこのことなのだろう。


「この国には警察・・・軍隊とか武力組織はないの?」

「軍隊があったら、その人達が命を掛けろと?」

「僕たちが命を懸けるより・・・」

「そいつらが死んだほうがいい?生きたい人間より、死にたい人間が死んだ方がよくない?」


こっちの服のほうがよくないと、女の子が服屋でしゃべるように、当たり前のことを聞くようにセリアは言った。僕は何も言えなかった。


「でも、ただ戦って死ねというほど僕も鬼じゃない。僕は神様だし、君たちもこの世界の人たちと同じ、僕が作ったといってもいい・・・・だから君たちにも報酬がある。」

「・・・報酬?」

「生き返らせてあげる。」

「え?」


生き返らせる?僕たちを?その言葉は希望なのか、僕たちにとっては絶望なのか、分からなかった。今の僕には・・・いや死ぬ前の僕にも、その言葉が希望になるかは分からなかったと思う。


「君たちはやっぱり狂ってるよ。」

「何が?」

「死んで生き返らせてあげるって言って、そんな複雑な顔をするのはおかしいよ。」

「確かに。」


彼女の言葉に僕は頷いた。その僕の顔を見てセリアは笑った。


「生き返る方法は、君たちのレベルを100にすること。」

「レベル?」

「左の手の甲を見て。」


セリアの言葉の通り、僕たちは左の手の甲を見た。そこには1という数字が書いてあった。


「このレベルはどうやったら上がるんだ?」

「生きているものを殺すこと、簡単に言えばモンスターだね。君たち生き返った人間にはね、ソウルイーターていう魔法がかかるんだよ。」

「ソウルイーター?」

「そう、殺した魂を君たちの魂が食べるんだ。そして、それが100になると、君たちは元の世界に戻ることが出来る。」


僕はその言葉を聞き、再び手の甲を見た。そして、もう片方の右手の甲にも数字があるのに気付いた。そこには3と書いてあった。


「こっちの数字は?」

「それは残機数、君たちのこの世界での死ねる回数だよ。」


僕は太樹の右手を見た。そこには僕たちと違い、2という数字が刻まれていた。太樹はその手の甲を見て焦っていた。


「この残機を回復させる方法は?」


その僕の言葉を聞いて太樹は顔を上げ、僕とセリアを見た。


「できるよ、レベルが一つ上がるたびに残機も一つ増える。」

「ゲームみたいだ。」


そう呟いたのは順平だった。順平は少し笑っていて、僕にはその笑みの理由が分からなかった。しかし、ゲームみたいという表現はわかる。


パチッ・・・・・・


セリアが指を鳴らすと、僕たちの目の前には剣が現れた。まるで最初からそこに刺さっていたようだ。


「君たちで言うゲームでいったら、初期装備といったところかな?」

「ほ・・・・本物?」


各々が自分の目の前の剣に反応した。紗耶香はその剣に怯え、順平はやや興奮し、太樹は剣を握って軽く振っていた。男の子にとって剣は、こんな状況でも気になるよね。


「弓矢とか鎧はもらえないのか?」


僕は加奈の姿を見て、セリアに聞いた。


「あげないよ?ここの外の町で自分で買いな。」

「お金ないけど。」

「化け物を倒したらお金を教会から寄付するよ。」

「買わせるのかよ。」

「資源は無限じゃないからね、役に立つか分からない人にはあげないよ。逆に剣一本あげることに感謝してほしいぐらいだよ。」


世知辛いな。勇者と言われるぐらいだから、もう少し優遇されるのかと思ったのだが。


「ぼぼ・・・僕たちは勇者なんだろ、伝説の武器とか、すごい魔法とか・・・ないのか?」

「アハハ!アニメとかじゃないんだから、ソウルイーターの能力が勇者の能力と言ったところかな?。」


セリアの言葉に、順平は肩を落として落ち込んだ。


「・・・・い・・・いや。」


後ろから小さな声で、紗耶香がつぶやくのが聞こえた。小さな声だったが、静かな教会には十分響いた。後ろを振り向くと、左手首を抑え、泣き出しそうになっている紗耶香の姿があった。


「いや!・・・なんでまた死ななきゃいけないの?・・・いやよ!」


紗耶香は泣き出し、叫んで訴えた。膝が震えてその場で下を向き、しゃがみこんでしまった。


「死にたかったんじゃないの?」

「死にたかったけど、こんな事になるなんて思わないじゃない。」

「そっか・・・」


紗耶香の言葉を聞き、セリアはため息をつき、紗耶香に近づいて行った。


「じゃあ・・・しょうがない・・・」


その言葉を聞き、紗耶香は顔を上げた。そこには紗耶香の頭の上に手を翳すセリアがいた。僕たち全員が、太樹を殺した時の雰囲気を感じた。


「い・・・や・・・。」


それに気づいた紗耶香が、悲痛な声を漏らした。しかし、太樹が焦った顔で紗耶香の前に立ち、僕はセリアの腕をつかんだ。


「どうしたの?三回死ねばこの子は解放されるし、僕も次の子を呼べるからウィンウィンじゃない?」

「今は死にたがってない。」

「嫌だって、言ってんだろ。」


僕たちの行動にセリアは首を傾げ、加奈は驚いた顔をしていた。


「戦うのが嫌なら死んだ方がよくない?どうせ元々死んでるんだから。」

「別に僕たちも戦いたくないけど?」

「勝手に生き返らせて勝手に殺すんじゃねえ!」


セリアは依然常に笑っていたが、目に殺気の様な凄みを感じた。僕と太樹は少し後ろに下がった。しかし、僕たちはそこを退かなかった。


一時の間、沈黙が続いた。


「セリア・・・そろそろ転送してくれますか?」


この沈黙を加奈が破った。セリアは加奈の方を向き、ニコリと笑った。その眼には殺気が消えていた。


「初心者を助けるなんて珍しいね加奈ちゃん。」

「別に、どうせ死ぬ人たちに時間をかけるのが無駄なだけです。」

「ふーん」

「・・・・・・。」


感情豊かなセリアとは対照的に、加奈は表情を一切変えなかった。


「そういう事にしといてあげる。それじゃあ洞窟に転送するね。」


僕たちを囲う魔法陣が光輝き始めた。これから洞窟に転送されるらしいが、正直心の準備とかさせてほしい。しかし、もう止めれる雰囲気ではなかった。


視界が光に包まれ、僕は目を閉じた。


僕の肌に先ほどの様な建物の中の感覚と違う、生暖かい風を肌に感じた。目を開けるとそこは洞窟だった。驚いた、本当に僕たちは瞬間移動したのだ。


「あの、さっきはありがとう。」


僕は加奈に先ほどセリアを止めてくれたことに、お礼を言おうとしたが、加奈は床に素早く伏せた。


「どう・・・」


どうしたのと言おうとしたが、頭に何かが当たった感覚と共に、僕の意識が途切れた。また思考だけが続いた。そうか、もう敵が目の前にいたのか、油断していた。


僕は二度目の死を経験した。







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