勇者は教会で蘇る

伊流河 イルカ

プロローグ

 「死にたいな。」 

本気か冗談か、しかし、誰もが一度はこの言葉を、考えたことがあるのではないだろうか。


ランナーがゴールを考えるように、生きているからこそ死を考えてしまう。


僕はこの時、何で「死にたい」などと考えたか覚えていない。

部活だったか、テストだったか、恋愛だったか、10年後、いや、下手したら1・2年後には、多分僕は笑い話にしてしまう、そんな他愛ないことで、僕は「死にたい」と考えていたと思う。


さて、何故僕がこの理由を、今さっきまで考えていた「死にたい」という理由を、忘れてしまったかというと、今まさに死んだからだ。

願いが叶ってしまった。ここまでろくに願いなど叶わなかったのに、この願いだけ叶ってしまった。


電車に曳かれ、僕は死んだ。自分でいったのか、誰かに押されたのか、何かの事故なのか、正直どうでもいい、死んでしまったのだから、どうでもいい。


しかし、死んだ後はどうなるのだろうか、天国?それとも地獄?別に僕は信じている宗教など無いが、どれが正解か興味がある。

自分が何の汚れも無い聖人とは言わないが、針山登らされるぐらい悪いことをした覚えは無い。となると極楽浄土か?どんなところなのだろうか?少し楽しみになる。元は高校生なので、いかがわしいお店に入ったことは無いが、そういうお店に入る前の気分になっている。


さて、この思考はいつまで続くのだろう?実は僕、死んでない?通過電車に曳かれて生き残ることがあるだろうか?あまり考えたくないが、恐らく僕の身体はバラバラになっていると思うが、そんな状態で物事を考えられるか?もしかして、走馬灯?


このまま誰とも会話することもなく、何も見ることが無い状況で、僕の理性はいつまで続くのだろうか?


「目覚めな、勇者たち・・・・。」


不意に女性の声が耳に入った。自問自答を長時間繰り替えしていたせいで、一瞬とうとう空想の女性を自分の頭が作りだしたのかと思った。


「体はもう動くだろ?目をあけな?」


再び聞こえてきた女性の声・・・女性というには幼い声だと再び聴いて思った。しかし、彼女からその言葉を聞いた時、僕の身体が存在することに気付いた。驚いた、確かにさっきまで存在していなかった全身の感覚を、僕は実感した。


「ねえ、おーい、もう聞こえるよね?目を開けなって、優希くん。」


名前を呼ばれた。あまり名前を呼ばれたことが無い僕は、違和感を感じたが、その少女の言う通り、僕は目を開いた。


「やっと目を開けたね、寝坊助さん。」


目を開けた目の前には、黒い修道服を着て、白髪をツインテールでまとめた少女がいた。どう見ても大人には見えない。それどころか、下手したら小学生にすら見える少女なのに、タバコをくわえていた。


「幼女がタバコ?」

「おいおい、蘇って第一声がそれかい。」


蘇った?ぼくが?僕は自分の身体を見た。身体には掠り傷一つなかった。自分の身体を確認した後、周りの様子を見た。


教会?十字架がないが、白色のこの部屋の雰囲気と、目の前の少女の姿で、何かの宗教の教会に見えた。部屋の真ん中には、中心に星のマークがある魔法陣が描かれていた。そして、その星のマークの先端5つの前に、僕を含め5人が立っていた。


「どこだよここ。」

「なんで、私・・・」

「・・・・・・・。」


僕以外の四人のうち、三人は困惑していた。その三人は服装が僕と同じで、学生服を着ている。どうやら彼らも僕と同じで、この場所にいきなり来たようで、周りを確認している。周りを確認しながら、僕たちは、お互いの顔色をうかがう。その中に一人、僕たちと同じ魔法陣の中の5人の中で、彼女だけは異才を放っていた。


「何・・・・?」


鎧のようなものを着て、背中には弓矢を背負った、黒髪を肩まで伸ばしたボブカットの少女が、僕にやや不機嫌な声で問いかけた。僕以外は彼女をチラ見していたが、僕は見つめてしまっていたので、気に障ったらしい。


「いや・・・ごめん。どこかで会ったことある気がして。」

「ナンパですか?」

「その服はどおしたの?」

「やっぱりナンパみたい・・・・すぐにそこの馬鹿から説明があると思います。」


彼女はそう言うと前を向き、僕の目の前にいた幼女タバコの方を見た。僕もつられて彼女の方を向く、馬鹿とはこの子のことを言っていたのか。


「馬鹿ってひどいなー加奈ちゃん。」

「・・・・。」


幼女は黒髪の少女、名前は加奈というらしい、加奈に対して笑いながら喋りかけるが、加奈はそれを無視した。やはり、この二人は僕と違い状況を理解している。もしくは、この状況を作った本人の可能性もある。


「お前ら誰なんだよ?てか、ここどこだよ。」


魔法陣の中の一人の、金髪の学ランを着た男が怒鳴るように二人に聞いた。かなり背が高く、190センチほどあるだろうか、そのためすごい迫力だ。もう一人、魔法陣の中の眼鏡を掛けた細身のブレザーの学生服を着た男は、金髪の声の大きさに驚いたのか、肩を震わした。


「威勢がいいね、太樹君。君みたいな子は期待が出来る。」

「あ?」


普通の女の子、それどころか成人男性でもビビるような容姿をしている太樹に、幼女は何の物怖じもしない様子だった。そこが感に障ったのか、太樹は睨みつける。


「あの・・・・私、死んでないんですか?」


魔法陣の中の最後の一人、茶髪で髪を一つに結んだ、セーラー服を着た少女が、恐る恐る幼女に問いかけた。その質問からして、やはりみんな僕と同じで死んだのだろうか?


その言葉を聞いた幼女は、不敵な笑みを浮かべる。その表情は、かなり不気味に感じた。睨みつけていた太樹も、気圧され少し後ろに下がる。


「死んでるよ。君たち5人みーんな死んでるよ。」


その言葉に、加奈以外の三人は息をのみ驚いていた。この反応からして、やはり全員僕と同じで死んでここに来たのだろう。


「死んでるなら・・・ここはいったい・・・?」

「ここはセリア、君たちんの世界とは別の世界だよ紗耶香ちゃん。」

「なな・・ならこれは異世界転生てやつか。」

「そうだよ順平くん、君たちは僕の魔法でこの世界に転生した。」


セーラー服の少女、紗耶香と、眼鏡の少年、順平の質問に、幼女はすらすらと答えていく。魔法?にわかには信じがたいが、この状況では否定もできない。この幼女が僕たちをここに連れてきたのか。


「君はいったい何者なんだ?」

「僕はセリア」

「セリアはここの名前じゃないの?」

「そうだよ、僕はこの世界そのものだから。」

「神様みたいなもの?」

「神様みたいなもの!」


僕の質問にセリアは立ち上がり、威張ようなポーズをとりながら答えた。その言葉に紗耶香と順平は驚き、太樹は小馬鹿にする様に笑っていた。


「神様がなんで僕たちをこの世界に蘇らせたの?」

「君、よく物怖じしないね。」

「気になったから。」


僕が質問を続けると、セリアはその姿に驚いていた。確かにこの状況は不思議だが、自分で考えても仕方がない。目の前に神様がいるなら、聞くのが一番早い。僕の様子を見て、セリアはニコリと笑う。


「君たちには今から、化け物たちと戦ってもらう、死ぬ気でね。」


笑ってはいるが、冗談などみじんも感じない目をするセリアのその言葉は、妙な雰囲気を醸し出していた。


「は!バカバカしい、何が神様だ付き合ってられるか、ドッキリか何かならもういいぞ。」

「ドッキリなんかじゃないよ、僕は神様で君たちは一度死んだ。」

「・・・っち、しつこいぞ。」

「あんなバイク事故で君は、自分が生きてると思うの?」

「・・・・・・!」


その言葉に太樹は驚いた。恐らく太樹の死因が当たったのだろう。太樹の顔は怒りの表情を浮かべ、無言でセリアに近づいた。


「なんだか知らねえが、しつこいって言ってんだろ。あんまりなめてるとガキでも許さねえぞ。」


太樹はセリアの胸倉をつかんだ。紗耶香と順平が動揺し、加奈はため息をついていた。


「この手を放しな。」

「あ?」

「離さないと死んじゃうよ?」

「お前いい加減にしろよ。」

「君たちは僕が魔法で作ったんだから、生かすも殺すも僕の手の中なんだよ。」


胸倉をつかまれても、一切動じないセリアに向け、太樹は拳を握って見せた。セリアは両手を太樹の頭の横に添えた。


「もう、三機しか無いのに、本当に君たちは死にたがりだな。」

「・・・・は?」


その一言と共に、太樹の頭は破裂した。


「いやああああああああああ!」


飛び散った太樹の頭の破片を見て、紗耶香は悲鳴を上げ、順平は嘔吐していた。しかし、僕はそのあとの光景に驚いた。


「治ってる。」


バラバラになった太樹の顔が一つにまとまり、時間が巻き戻ったように元の状態に戻っていった。まるでさっきの出来ごとが嘘だったようだ。


「これで信じてもらえたかな?」


元の顔に戻った太樹は、形を確かめるように自分の顔を触った。セリアが太樹の顔を覗きこみ笑う。太樹の顔が真っ青になった。


「君たちにはこれから、何度でも戦い、何度も死んでもらう。」

「何で?」


僕の言葉を聞き、セリアは更に笑みを浮かべる。最初と違い彼女が怪物に見えた。


「だって君たちは【死にたい】んだろ?だったら何度でも死なせてあげる。」





























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