第8話 驚愕の事実と、赤崎への怒り



 お母さんが席を外して、リビングで三人とも無言むごんの時間が続いた。


 何だろう?

 付き合いました、っていう雰囲気じゃないし。


 けど、告白がうまくいかなかったのに一緒に行動するのって変じゃない?


 赤崎と美優は今日初めて、直接話したはずだ。

 わからなすぎて怖い。


 一体何なの?!

 誰か教えてよ!





「……本当は、ね。赤崎君の話を聞いた時に『絶対に心をひっぱたいてやる!』って思ってた」


 先に話し始めたのは、美優だった。


「でも、その泣いたあとを見たら何も言えないよ。ごめんね、協力してくれて……ありがとう」


 どうして、美優にひっぱたかれなきゃいけないんだろ?

 何がどうなってるのか、本当にわからない。

 赤崎と美優、屋上で何の話をしたのよ!


「詳しい事は、赤崎君から聞いて?あと、心……よかったら、これからも友達でいてね?また、明日」


「う、うん」


 私は、必死に答える。

 赤崎が美優の顔を見て、言った。


「戸倉さん……ごめんな」

「……!!……いいよ、多分どうしようもなかったよ。それに心の顔見たら、わかった。全部、納得できた」


 鼻をすすった美優がそんな言葉を残して立ち上がる。

 私は何一つ納得も理解もしていない。


 けど。


 美優のうるんだ瞳と小さく振った手を見たら、私も何だか泣きたくなって、手を振り返す事しかできなかった。


「あら、もう帰るの?」

「はい!お邪魔しました!」 


 美優がお母さんに元気よく挨拶あいさつをして帰っていく。






 美優を見送った後、ずっと黙ったままだった赤崎がやっと話し始める。


神崎かんざきがここんとこ、彼女が欲しいかとか好みのタイプとか聞いてきた理由が今日やっとわかったよ」


 赤崎はジト目で私をにらんでくる。


 私は言葉が出ない。


「部活の後で屋上に行ったら、戸倉さんに告白された」


(……来た)


 私は覚悟を決めて、喉から声を絞り出す。


「……うん」

「好きな人がいるからって断った」

「………………はあ?」


 赤崎の発言に、自分でも驚くくらいの大声が出た。


 お母さんが、何事?とキッチンから覗いてくるのを、両手を突き出して止める。


 ああ、それを私が知らないはずがないと思って、美優は怒ってたのか。それは怒るよ。


 私の事、全力で引っぱたいてもおかしくないよ。


「だったら、好きな人がいるって話してくれてたらよかったのに。初耳だよ」


 今度はこちらから赤崎をジト目でにらむ。

 だけど赤崎はひるむどころか目線を合わせてくる。

 

「神崎に?……それ、本気で言ってるのか?」


 赤崎の返答に、息が詰まった。


 顔が真っ赤になっていくのが、わかる。




 ああ、そう。

 そうだったんだ。


 私と赤崎の距離、恥ずかしいくらい勘違いしてた。




 私は赤崎にとって、その程度だったんだ。


 気になる、とか好きな女子の事ひとつも教えらんないような、そんな関係でしかなかったんだ……!!


 悔しさと悲しさと怒りで、視界が歪む。


 目の周りのヒリヒリが、よけいに怒りを倍増させる。


「もう、わかった。よーくわかった。赤崎にとっての私が、どれだけどーでもいい存在だったか、ものすっごい理解できたよ……!!」


 直した言葉遣いなんか、ぶん投げてやらぁ!


 私は拳を握りしめて、涙も拭かずに立ち上がった。

 そんな私に、赤崎は慌てだす。


「な?!お、おい!神崎!何怒ってんだ?そんな事ひとっことも言ってねーだろ!……ここまで言ってもダメか、マジかー……あああ!もう!言ったらあ!!!」


 

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