第7話 予期せぬ訪問者と、決めた覚悟
慌ててリビングへと向かい、洗面器を回避した。
顔を冷やしながら、お母さんの事情聴取に付き合う。
抱えていた事を話して、気持ちがほぐれていく。
調子に乗って、冗談を言ってみる。
「刑事ドラマとかだと、ここでカツ丼が出てくるよね」
「勝てなかったから『負け丼』でいいんじゃないの?」
「ぐっはあ?!!」
胸を押さえてソファーから転げ落ちる。
「ひ、ひどくない?!負け丼?!負け丼って何なの?!」
「あはは、冗談冗談。心は何食べたいの?」
「もー!冗談で心臓飛び跳ねたよ!……うーん……消化にいいものが、食べたいなぁ」
「ん。そうね。じゃあ玉子とじのお粥でも作ろうか?」
「あ、お願いします……」
負け丼とか絶対嫌だなあ、でもお母さん気を遣ってくれてるんだな……と思いながら何となく甘えていると、玄関のチャイムが鳴った。
●
モニターで話をするお母さんが、困り顔をしている。
「お母さん、誰が来たの?」
「心にお客さんよ。赤崎君って男の子と戸倉さんって女の子。この子達ってまさか……さっき心が話してた子達?」
赤崎と美優!
なんで?!
何をしに来たの?
俺達、付き合う事になったんだ、って?
ありがとうって?
今、二人に笑える?
明日じゃなくて?
今?
今?
今じゃないとダメなの?
ぐるぐる、ぐるぐる。
頭の中。
混乱する。
「どうする?今日は申し訳ないけど帰ってもらう?」
お母さんの言葉で、我に返る。
そして。
「………………………………………………会う」
私は声を振り
別に「会いたくない」でもいいのかもしれない。
鼻の奥がまた、ツン、としてくる。
今日は泣いてばっかりだ。
でも。
私は、赤崎への気持ちとサヨナラしなければいけない。
それなら。
それなら、さ。
明日二人と会ってからじゃなく、今日から。
今日話して。
おめでとうって笑って。
照れる二人をからかって、いじりまくって。
また明日ねー!って見送って。
耐え切れなかったら、また泣いて。
今日から一歩ずつ、サヨナラしていこう。
美優は優しくて可愛くて、すっごくいい子で。
赤崎は大好きで、大好きだった人。
頑張れ、頑張ろ?私。
毎日練習した、顔いっぱいの笑顔、だよ?
●
挨拶をしてリビングに入って来た二人は私を見て驚いている。
そうだった。
この泣きはらした顔を、何とかしておくべきだった。
は、恥ずかしい。
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