第7話 予期せぬ訪問者と、決めた覚悟



 慌ててリビングへと向かい、洗面器を回避した。


 顔を冷やしながら、お母さんの事情聴取に付き合う。

 抱えていた事を話して、気持ちがほぐれていく。


 調子に乗って、冗談を言ってみる。


「刑事ドラマとかだと、ここでカツ丼が出てくるよね」

「勝てなかったから『負け丼』でいいんじゃないの?」

「ぐっはあ?!!」


 胸を押さえてソファーから転げ落ちる。


「ひ、ひどくない?!負け丼?!負け丼って何なの?!」

「あはは、冗談冗談。心は何食べたいの?」

「もー!冗談で心臓飛び跳ねたよ!……うーん……消化にいいものが、食べたいなぁ」

「ん。そうね。じゃあ玉子とじのお粥でも作ろうか?」

「あ、お願いします……」


 負け丼とか絶対嫌だなあ、でもお母さん気を遣ってくれてるんだな……と思いながら何となく甘えていると、玄関のチャイムが鳴った。





 モニターで話をするお母さんが、困り顔をしている。


「お母さん、誰が来たの?」

「心にお客さんよ。赤崎君って男の子と戸倉さんって女の子。この子達ってまさか……さっき心が話してた子達?」


 赤崎と美優!

 なんで?!


 何をしに来たの?

 俺達、付き合う事になったんだ、って?


 ありがとうって?


 今、二人に笑える?

 明日じゃなくて?

 今?

 今?

 今じゃないとダメなの?


 ぐるぐる、ぐるぐる。

 頭の中。

 混乱する。

 

「どうする?今日は申し訳ないけど帰ってもらう?」


 お母さんの言葉で、我に返る。


 そして。






「………………………………………………会う」






 私は声を振りしぼって、言ってしまった。


 別に「会いたくない」でもいいのかもしれない。

 鼻の奥がまた、ツン、としてくる。


 今日は泣いてばっかりだ。


 でも。


 私は、赤崎への気持ちとサヨナラしなければいけない。


 それなら。


 それなら、さ。


 明日二人と会ってからじゃなく、今日から。

 今日話して。

 おめでとうって笑って。


 照れる二人をからかって、いじりまくって。

 また明日ねー!って見送って。


 耐え切れなかったら、また泣いて。

 今日から一歩ずつ、サヨナラしていこう。


 美優は優しくて可愛くて、すっごくいい子で。

 赤崎は大好きで、大好きだった人。


 頑張れ、頑張ろ?私。

 毎日練習した、顔いっぱいの笑顔、だよ?





 挨拶をしてリビングに入って来た二人は私を見て驚いている。

 

 そうだった。

 この泣きはらした顔を、何とかしておくべきだった。


 は、恥ずかしい。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る