第5話 気づかなかった好き、好き、好き



 あと、数時間で告白。

 美優が、赤崎に『好きです』って言うまで。


 赤崎は美優を他クラスの私の友達位にしか思ってない。


 でも。

 私は赤崎に聞かれるたびに、


『可愛いでしょ〜!気になる?気になる?』

『優しくていい子だよ!』

『彼氏募集中だってさ!』


 とか言って、アピールする事を忘れなかった。


 いっぱい。

 できる限り。

 毎日。


 赤崎も、『ふーん』って美優を眺めてたから、悪くない反応だと思う。


 だって赤崎は卑怯な真似なんて絶対にしない人で。


 そんな赤崎に卑怯者だって思われたくなかった。


 美優にだって、真正面から顔を見れなくなるくらいなら私の片想いで終わる方がマシだ、とも思ってた。


 私は、この短い時間で美優の事も好きになってた。

 すごい、すごい良い子なんだ。


 だから。

 せめて、これからも。


 二人にとって、面白くてバカ話ができる仲の良い女子でいさせてほしかった。


 赤崎が、美優が幸せそうに笑っている顔を見ていれればいいと思ってた。

 

 思ってた、けど。

 それはやせ我慢でしか、なかった。




 このあと。




 きっと、告白された赤崎はすっごい驚いて。

 でも、顔を赤くしていつもの優しい瞳を美優に向けて。

 答えるんだ。


 

『俺で、いいの?』って。

 




 他の子と赤崎が付き合うって何で考えなかったのか。


 何で、このままずっと赤崎が私の隣で笑っててくれるなんて勘違いしていたんだろう。


 どうして、赤崎への気持ちを気づかなかったんだろう。


 私はベッドに腰を掛けたまま、赤崎の事をいつから好きだったのか、考える。


 今は何も考えない事が怖いというのもある。

 あと何時間、と告白迄の時間を数えそうだから。




 美優が頼み事をしてきた時は、気づいてなかった。


 頭ぽん、で赤崎の手を離さなくなったのはいつ頃?


 …………。


 ………………。


 ………………。


 !


 ……!!


 !!…………!!!

 



「……ふっ」


 漏れ出た声に、両手で口を押える。


「う…………!ふうううっ」


 ずっと我慢していた涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちていく。


 赤崎を好きな私が、たくさん見えた。



 

 赤崎が来そうなタイミングで、頭ぽん、してもらいたくて寝たふりして。


 してもらえなかったら、『朝の挨拶がなーいー』って文句言って。




 放課後に図書室で勉強し始めたのも、帰り道一緒にならないかなって。


 私がいたら驚くだろうなって、ワクワクしながら下駄箱でウロウロして。


 会えなかったら、残念って、しょんぼりと帰って。


 会えた時は嬉しくってまとわりついて。




 気合を入れた赤崎の、いつもより低い声と目力めぢからに顔が熱くなって。


 教科書を忘れた赤崎とコソコソ話をして、いつもより近い距離に緊張して。


 

 

 クラスの男子と恋バナしてる赤崎の言葉を寝たふりしながら聞き耳を立てて。

 

 何かモヤモヤして声かけられても膨れたりして、でもそんな私を構ってほしくて。


『俺も彼女ほしいよなぁ』とかいう赤崎にホッとして、勝手に機嫌直して。



 夏休み、買い物を頼まれると赤崎の使う駅まで自転車で行って。


 偶然会えないかなって。

 でも全然会えなくて。


『今、何してるの?』ってチャット、入れては消して。

 ウザいって、何コイツって思われたらどうしようって。


 でも、赤崎の笑った顔、見たいなって。


 見たいな、って。




 もっといっぱい、ある。

 もっといっぱい、見える。




 赤崎がいないと、嫌なんだよって。

 好きなんだよって。

 寂しいんだよ、って!


 


 ……私、こんなに好きだったんじゃん。

 こんなに、好きだって叫んでたんじゃん!




 明日には、彼女募集中のアイツはもういない。


 涙が、止まらない。




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