第4話 今さら、好きなんて言えるわけないから。



 まだ、お昼すぎたばっかり。


 スマホで写した赤崎の笑顔を見ては、ぼんやりとして。

 ベッドに倒れこんでは、ぼんやりとして。

 起き上がって、窓の外を見ては、ぼんやりとして。


 さっきからそんな事ばっかり繰り返してる。


 



 結局、早退してしまった。


 お父さん、お母さん、学校の先生、美優、赤崎、香奈……申し訳なく思う。


 でも、今日はもうダメだった。


 あれだけ練習した笑顔が、気がついたら泣き顔に代わりそうで怖かった。


 だから。

 

 赤崎に「部活が終わったら絶対屋上に行ってね」と告げて、お昼も食べずに学校から逃げる様に帰ってしまった。


 こんな理由で学校を早退しちゃダメなのに。


 お母さんに病院に連れて行かれそうになったけれど、落ち着いたから横になりたいと言うと、お母さんは私の様子を見てから階下に降りていった。


 ごめんね、お母さん。





 美優が赤崎に告白する。


 この日が来る事は、わかっていた。


 他のクラスの美優に初めて声をかけられた日。


「もし神崎さんが赤崎君と付きあってないのなら、赤崎君の事を教えてほしい。決心がついたら告白したい」


 そう言われたのだ。


 私は、バカだ。

 美優に協力を求められるまで赤崎への気持ちに、気付いてなかった。


 それだけじゃない。

 私は、自分の気持ちにフタをしてしまった。


 今さら、好き、なんて言えるわけないから。


 そのくせ、赤崎から好みのタイプとか彼女が欲しいかとか、少しでもヒントを聞き出した日には、どこかしら近付けようと毎日努力していた。


 無駄なあがき。

 実らせちゃいけない努力。


 でも。

 赤崎の言った言葉が、頭の中をくるくると回ったんだ。



 "彼女?そりゃ欲しいだろ!"

 "理想りそうの彼女?うーん……髪がサラッサラしてて、できれば長くてな?"

 "笑顔が、ヤバいくらい可愛くて、優しくて"

 "俺のバカ話を含めて、話してて一緒に盛り上がれる彼女とか最高だな!"

 "剣道部の試合の時に、弁当持参で応援とかしてもらえたら俺、絶対燃える!"



 そんな言葉を聞いた私はその日から。


 長いとは言えない髪をサラサラにしようと頑張った。

 髪留かみどめを赤崎の好きな色に変えた。

 言葉が優しくなるよう、話し方を変えていった。


 それだけじゃない。


 スカートの長さ。

 好みの香り。

 メイク。

 ネイル

 趣味の話。

 テレビや映画の話。

 好きな食べ物。

 料理の勉強。

 笑顔の練習。

 楽しい話題探し。


 もう本当に今さらなのに、頑張ってしまっていた。


 いつもより少しでも多く私を見てほしかった。

 『今日、何か違うよな!』って驚いてほしかった。

 『神崎は俺の事一番わかってるよな!』って。

 

 言って、ほしかったんだ。

 

 だけど。


 いくら頑張ったところで、赤崎の理想の彼女の姿は美優と重なるだけだった。


 赤崎の隣にいられる女子は、私じゃなかった。


 私じゃ……なかった。

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