第3話 私と赤崎



 赤崎が教室に駆け込んできた。


「間に合ったぜ!あっぶねー!」


 いっつもギリギリ。 

 剣道部の朝練、もう少し早く終わればいいのに。


 そんな事を考えてたら、頭にぽん、と手が乗せられた。


「よっす」

「おはよー。……乙女の頭、軽々しくさわるなぁ」


 とか言って、この、頭ぽん、が好き。

 前みたいに赤崎との距離が少し近く感じる、嬉しい。


 前まではどさくさ紛れに手を掴んだりできたのに。

 赤崎が手を離すまで、手の温もりを感じられたのに。



 今は。



 さわるなー、って言いながら。

 赤崎の手を一瞬だけ、キュッ!と握りながら。

 ずっと撫でてほしいって思いながら。


 胸がぎゅう!ってなるのを我慢しながら。

 顔いっぱいの笑顔を意識しながら。

 前みたいに、じゃれてたいのにって。


 でも。


 美優が赤崎に告白したいって聞いてからは、自分からは何もできない。

 

 そんな、1ヶ月間だった。


 今日の放課後の事を考えると、苦しい。

 苦しい。

 当たり前だ。


 だって。



「元気ねーな。具合悪いのか?水、いる?」


 こんな時に不意打ちで優しくしてこないでよ!と思いつつ、赤崎を見上げて聞く。


「赤崎……放課後、時間ある?」

「放課後?何で?」





 美優は可愛くて、すっごくいい子で。

 赤崎から聞いてた好みのタイプと一緒。


 だから、きっと告白はうまくいって。もうこれからは、頭ぽん、なんて挨拶は夢のまた夢。


 今、自分の気持ちに気づいたところで。赤崎を好き、と気づく事ができなかった私の恋心は、今日で終わる。



 明日。



 赤崎と美優をからかって、いっぱいお祝いしないと。



 お祝い、しないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る