クリスマスイヴ(12/24)
「略奪愛を狙っちゃえばよかったんだ」
「狙いませぬ」
「確かに、神斐王子は好ましいけど、芯が揺らぎ過ぎだ。姫様に相応しくないってなよなよして。姫様の結婚相手だという本当に自覚があるのか。ちょっと苛々してしまうよ」
「一番大切な芯が揺らいでおりませぬゆえ、いいのでございます」
「それは僕も君も同じだ。姫様の幸福を願っているという芯は揺らいでいない」
「蛇は姫様と結婚したかったのでございますか?」
「僕じゃなくて君だろう。両想いだったのに、両片思いで終わってしまってどうするんだ。まったく。姫様も姫様だ。自己完結をして。君と一緒に変わるという選択肢を見つけないなんて。まだまだ視野が狭い」
「わたくしと結婚をしても姫様の視野を狭めるだけでございます」
「ほら君も決めつけている。狭めるだけかどうかはわからないし、そもそも姫様の視野を狭める事の何が悪いんだ?そういう幸福もあるんだ」
「蛇。落ち着いてください」
「まったく。もう。どうして、どうしたって可愛く見えて、甘やかしたくて、この世の生物の中で一番幸福になってほしいんだよ」
「甘やかされる事を姫様が一番厭うてございますが」
「知っている。特に姫様を眠らせてしまってからは僕が近づくたびにツンツン度合いが大きくなっている。こんなに好きなのにすげなくされるんだ。こんなに好きなのに。でも、隙を見せまいと僕を遠ざける姫様が可愛い。好きだ」
「蛇は姫様離れを考えるべきではございませぬか?」
「嫌だね。姫様が生きている限りは離れない。君だってそうだろう?」
「はい。わたくしは姫様の守護者でございますゆえ」
「僕は君にも幸福になってほしいんだけど」
「蛇、姫様、神斐王子、この国の王族の方々、この国の住民の方々と出会えて、刻を共に過ごせて、わたくしはこれ以上もなく幸福でございます。幸福でございますのに、欲が深くなり。あるまじき失態を犯しました。もうわたくしは、同じ過ちは二度と起こしませぬ」
「深くなっていいのに」
「はい。深いままでござます」
「どうだかね」
「ふふふ」
「まったく。そうだ。隼士。姫様がまた明日、地方の視察に行くからクリスマスパーティーに出ないって駄々をこねているらしいんだ。クリスマスパーティーに出る時間があるなら、仕事をする、学ぶんだって。今迄は姫様の想いを尊重していたけれど、今年はそうはいかないよね」
「左様でございます」
城の庭に出てクリスマスパーティーの準備の手伝いをしていた蛇と隼士は、明かりが点いている姫の自室へと顔を上げて、目を細めるのであった。
(2022.12.24)
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