冬至プリン(12/22)




 冬至。

 一年で夜が最も長く昼が短い日。

 かぼちゃを食べて栄養をつけて、身体を温めるゆず湯に入り無病息災を願う。











 要らない。好きではなくなった。

 淡々とそう言ったが、嘘だとわかっていた。

 何故嘘をつくのかも。


 姫は甘く守られるだけの存在。

 何故かそう勘違いをするようになった姫がそんな姫像から脱却すべく、まず最初に拒絶したのが、これだった。

 好きなのに我慢している姫の気持ちも尊重したいが、好きなものを我慢するのはよろしくない。

 だから俺は、俺の家ではこれを食べるのが習慣だと言って冬至の日にこれを贈るようになった。






「これ、贈り物。やる」

「わたくしにでございますか?」

「もう姫には手渡している」

「そうでございますか。では有難く頂戴しますぞ」


 城の休憩室で休憩を取っていた隼士は神斐から受け取った。

 かぼちゃ、抹茶と小豆、ゆず、金柑、人参。

 それぞれで作られた五個のプリンを。


「そなたは姫の事は好きなんだよな」

「はい」


 神斐は早速かぼちゃのプリンを食べている隼士の前の椅子に半ば乱暴に座り、今の今迄溜め込んでいた疑問をやおら吐き出した。


「結婚したい好きか?」

「わかりませぬ」

「否定はしないんだな」


 神斐は赤い実がなる蔓でやわく結び前に垂らしていた藤色の髪を後ろへと払った。

 隼士はちまちまちまちま食べていたかぼちゃのぷりんを半分食べ終えてから、木の匙を木皿に、手を膝に置いて、神斐を直視した。


「わかりませぬが、わたくしは略奪愛は致しません。決して。姫様には神斐王子が必要でございます。わたくしよりも。こうして優しく姫様の好物であるプリンを贈ってさしあげる神斐王子が必要なのです」

「そう思いたいが、思っているが。情けないが。俺は姫には俺が絶対必要だと胸を張って言えない」

「言ってくださいませ。神斐王子。胸を張って」

「隼士」

「わたくしは姫様を好いております。そして情けないと口に出して言える神斐王子も好いております。好いている御二人には幸福で居てほしいのでございます。泣く回数よりも笑う回数が多く生きてほしいのでございます」


 無言で真紅の、葡萄えび色の。

 互いの瞳を見つめてから少しして、ふっと。

 神斐の口からやわい吐息が零れ落ちた。


「………恋敵の塩は有難く受け取っておいてやる」

「はい」

「ふっ。本当に否定しないんだな」

「はい。恋敵と認定されていた方が、神斐王子の背筋が伸びますゆえ」

「………背筋が伸びないのはそなたの所為でもあるんだがな」

「ふふふ」

「ふん。来年も贈ってやる。再来年も、その次も。だから、居なくなるなよ。姫の傍から。ずっと守護者で居ろ」

「わたくしが居ない方がいいのではございませぬか?」

「まさか。俺はそこまで器量は狭くない。思った事は多々あるが」


(本当に神斐王子と話しているとほんわかしますぞ)


 隼士は僅かに眉尻を下げて胸を張る神斐を見たのであった。











(2022.12.22)


 

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