菓子の樹(12/21)
黒チョコが挟まっているランドグシャ。
葉巻の形に似ている中が空洞のシガレット。
周囲にグラニュー糖をつけているサブレディアマン。
模様や文字が砂糖と卵白で書かれているアイシングクッキー。
卵の代わりにアーモンドプードルが使われているスノーボール。
ココアとプレーンの市松模様のクッキー。
苺のジャムサンドクッキー。
アーモンドとキャラメルが上面に塗られて焼かれたフロランタン。
卵白と砂糖、檸檬果汁で作られたメレンゲクッキー。
カカオ成分が高いダークチョコレート。
ココア粉がまぶされているトリュフ。
アーモンドチョコ。
様々な果実の味が楽しめる砂糖で覆われているコーティンググミ、強い酸味の粉がまぶされているパウダーグミ、柔らかいソフトグミ。
などなど。
多種多様なクッキー、チョコ、グミがクリスマス当日にだけ実る菓子の樹は、竜の長が守っており、この日に姫が受け取りに行く事が慣例となっていた。
「私が行く必要はないだろう」
「はい。姫様が眠っておられる間に役目を果たしておりました妹君が今年も同様になさればいいので、確かに姫様が行かれる必要はないのでございますが、その妹君たっての願いでございますので行く必要はあると思いますぞ」
「私はもう結婚している。姫ではない」
「姫様は姫様でございます」
「私はいつまでも姫のままか」
「不満がおありでございますか?」
「私の未熟さゆえの不満だ」
「姫様」
「何だ?」
「わたくしはアドベントカレンダーの中で肩の力を抜いて屈託なく笑う姫様と接して、姫様には姫様の重責を下ろせる場所が必要だと思ってもおりました。ゆえに、わたくしは迷っておりました。姫様が帰らないと言っておられる間は、その願いを聞いた方がいいのではないかと。けれど、蛇も神斐王子もご家族も住民も、わたくしも、姫様とかけがえのない日々を過ごしたいとも切に思っておりましたゆえ。わたくしはどちらかに傾けられる事はできぬ、優柔不断な行動を取っておりました。申し訳ございませぬ」
姫と並んで城の庭を歩いていた隼士は立ち止まり、その場で土下座した。
姫は無言で隼士を見続けていた。
少しの間だけ。
それからおもむろに口を開いた。
「隼士」
「はい」
「私は成長し続けたいと思っているのに、いつまで経っても子どものままだ。小さな小さな姫のまま。あなたと出会った時とそう変わらないまま。私は、知識が豊富で大抵の事は何でもそつなくこなす、不老不死のあなたと長命な蛇をずっと追い続けていたかった。老いたくなかった。ずっと。ずっとだ。見ていてほしかった」
子どもだ。
頭を下げたままの隼士は姫の自嘲が滲み出る言葉に胸が痛んだ。
ズキズキズキズキと。
ひどく。
(ごめんね)
姫は不意に泣きたくなった。
頑是なく泣き喚いて、隼士に抱き着きたくなった。抱きしめたくなった。抱きしめてほしかった。
強く。
(ごめん)
(2022.12.21)
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