生姜(12/20)




 確かに喜ぶ自分が居て。

 気付いたのだ。

 このままでは貪り尽くしてしまうと。











「知ってはいたけど、この国の住民は本当におおらかだよね。姫様が十年間眠りに就いている間もまあいっぱい眠りたい時もあるって笑って。姫様が十年ぶりに目覚めた時も、十年前と変わらない姿のままでも大袈裟に騒ぎ立てないでこんにちわって笑って」

「はい」

「姫様と君の無表情な顔を並んで見られたら嬉しいって笑ってさ」

「はい」

「のんびりな住民と違って、姫様は目覚めたらもう国王の仕事の手伝いを始めるしね。この十年の間の事も一言ごめんなさいだけだし。別にいいんだけど。まったく。僕はとっても寂しかったのにさ。感動の対面とかちょっと期待していたっていうのに、通常運転。今日も構ってくれないから、君と寂しく生姜の買い付けだし」

「蛇」

「何?」

「わたくしは姫様が目覚めて本当に嬉しいです」

「うん」

「ですが、本当に目覚めさせて良かったのかどうか。わたくしは、疑問を解消する事ができませぬ」

「そっか」

「はい」

「僕は目覚めてくれて嬉しいって気持ちだけだけど。君は違うんだね?」

「はい」

「君は姫様に対して、伝えたいのに伝えられない想いがあるんじゃないかい?」

「はい」

「姫様と話してごらんよ。ゆっくりとお茶でも飲みながら」

「姫様が応じるとは思いませぬ」

「まあねえ。本当に。丁寧に応じてはくれるけど、基本的にせかせか動くし。あーあ。今年も最後までクリスマスパーティ―を過ごしてくれそうにないよね」

「はい」


 飴色に染まる生姜を買った隼士と蛇は籠を背に負い、少しだけ歩幅を狭くして姫が居る城へと向かうのであった。











(2022.12.20)


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